妻の退院日
私は次男と三男を幼稚園に送り届けた後に妻の入院する病院へ向かった。
年明けから面会はしていたが、こうして今日、妻と帰宅することが出来ることに自然と心が踊ってしまう。
何より、家事がきつかった。
片付けても、片付けても、家を散らかす子供達。
ご飯の時間も勉強の時間も、寝る前の時間さえも、騒がしい。
妻は、よくこの家庭を支えていたな、と改めて実感する。
その主婦の忙しさに加えて、あんなに、心と体に負担の強いられる仕事を引き受けさせてしまった自分が、いかに罪深いことだったのか、夜な夜な一人涙することもあった。
とりあえず、家族で旅行に行こう。
年末に会社からは臨時のボーナスが入った。
恐らく、慰謝料込みなのだろう。
国産の高級ミニバンが買えるくらいの金額が入っていた。
本来ならば、こんな金額ではすまないのかもしれない。
但し、もう妻。そっとしておいて欲しいので、お金のことで文句をつけるようなことはしない。
そして、このお金には手をつけていない。
このお金は全て妻が受け取る権利があるからだ。
10時過ぎに病院に到着すると、妻と産婦人科の担当医師が病室におり、妻は既に荷物をまとめ終わっていた。
妻「パパ、退院準備整ってるよ。」
遥香「婦人科については、問題ありません。来月に一度心療内科の受診をお願いします。」
私「ありがとうございました。お世話になりました。」
私は妻と共に退院手続きをしに窓口へ行った。
係員「えーと、K.Yさんですね。全て実費負担ですが、請求先口座が既に指定済みなので、窓口でお支払いいただく診療費はございません。」
私「あ、そういえばそうでしたね。」
係員「お薬が処方されておりますので、こちらの処方箋を薬局へお持ち下さい。お大事にどうぞ。」
私「ありがとうございました。」
総合窓口前のベンチに座っていた妻に聞かれる。
妻「入院費いくらくらいした?結構高かったんじゃない?」
私「ん?そんなでもないよ。今回、俺の仕事の影響で妻が過労で倒れた、って説明したら、会社の保険組合が負担してくれることになったから。」
私は今回のことが部長や社長に知られていることを、妻には話していない。
妻「え?そんなことってある?」
私「うーん。とにかく、入院費用はそんな心配しないで大丈夫だよ。」
妻「ふ~ん。変なの。」
妻は腑に落ちない顔をしていたが、私は気にせず薬局へ行き、薬を受け取り車へと乗り込む。
妻「あー!!久々に家に帰れるー!」
私「また子供達との地獄のような日々の始まりだな。」
妻「何それ(笑)私の苦労よく分かったでしょ?(笑)」
私「痛感しました。あ、そういえばさ。年末に会社から臨時ボーナス出た。」
妻「あ、そうなんだ。良かったね。いくら?」
私「新車でヴェルファイアの良いグレードのやつが買えるくらい。」
妻「えぇ!!?そんなに!?」
私「うん(笑)車買い換える?(笑)」
妻「車は今ので十分でしょ!」
私「ま、使わないでおいてあるよ(笑)」
妻「へー。なんかビックリ(笑)」
私「今回の利益が凄かったらしいよ。」
妻「いくら?」
私「詳しくはまだ聞いてないけど、億はいってるんじゃないかなぁ。」
妻「へー。良かったねー。」
私「ま、俺だけの力じゃダメだったけどね。」
妻「でも、パパ頑張ってたじゃない。」
私「ママの助けがなかったらダメだったよ。」
妻「あぁ………。うん。ありがとう?なのかな(笑)」
私「ゴメンな。俺がふがいないばかりに。」
妻「そんなの昔からじゃん(笑)」
私「まぁ、そうなんだけどさ……。」
妻「さ!この話はおしまい!お昼何食べるの?病院の食事ばっかで飽きちゃった。」
私「何食べたい?」
妻「んー。久々にお肉かな。」
私「あ、じゃあ、美味しいシュラスコの店が隣町にあるよ?」
妻「え?それって、もしかして県道沿いにあるやつ?」
私「そうそう。知ってるの?」
妻「あー。うん。実は大和さんと一回行ったことあるんだ。まぁ、そこでいいかな。」
私「あ、そうなんだ。うまかった?」
妻「うん、おいしいよ。」
私「じゃあ、俺も興味あるから、そこにしよう。」
妻「分かった。あ、パパ。あと。」
私「ん?」
妻「今夜、エッチしようね?」
私「いきなり(笑)」
妻「え?ダメかな?」
私「全然大丈夫だけどね(笑)俺も相当我慢したからなぁ。」
妻「でしょ?(笑)」
そう他愛ない会話をしながら、私の運転する車は、妻を助手席に乗せて自分達の帰るべき家に向け、国道をひた走っていった。
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