高橋さんの家から戻ると、丁度長男が家に帰って来たところだった。
私は長男を車に乗せると、妻の入院する病院へと向かった。
担当医から、今日は妻との面会を許された日だった。
4時半に病院へ着く。
先に、ナースステーションに寄り妻に面会に来た旨を伝える。
子供達は久々に母親に会えることで、はしゃいでいたので、私は子供達を注意して、妻の病室の前に立ち扉を開いた。
妻「もう!声大きすぎっ!」
いきなり妻に叱られる子供達。
子供達は、次男と三男は、それでもお構いなしに妻に飛びついた。
妻「ちょっと順番!いきなり二人揃って来ないの!」
妻はベッドに座りながらまず三男を抱きかかえた。
次男は、妻の横に座り、順番を待った。
妻「三ちゃん、元気だったー?」
三郎「ママ元気だった?」
妻「元気だよー。三ちゃんに会えないから寂しいなぁ。」
二郎「ママ、二郎はー?」
妻「二郎にも会えないと寂しいよー。」
二郎「三ちゃん、交代してよー。」
長男は、クリスマスに買ったポケモンの話を一方的に妻にして、妻は長男の話も聞いていた。
子供達はやはり母親が大好きなのだ。
私「ちょっと、先生に話聞いてくるから。子供達頼むよ。」
妻「うん、分かった。」
私は病室を出て、ナースステーションに声をかける。
看護師「日下部先生と日吉先生ですね。二人共、この後、ご主人に病状説明があるみたいです。こちらに、お願いします。」
私は看護師に連れられて、病棟の処置室へと通された。
20分くらいして、白衣を着た産婦人科の担当医と、私服姿の初老くらいの女性が入ってきた。
私服姿の女性がまず挨拶してきた。
日吉「心療内科部長の日吉といいます。」
私「よろしくお願いします。」
日吉「早速私から説明でいいかしら?」
遥香「部長、お願いします。」
産婦人科の担当医が頭を下げた。
日吉「分かりました。まず、奥様の症状ですがPTSDに見られる明らかな兆候はまだ認められません。ただ、これはまだ私も判断がつかない状況です。性的暴行を受けた患者さんの場合、パートナーとのセックスにおいて、急に症状が出る方もいますので、退院後もケアが必要になると思われます。セックスを一切制限するものではありませんが、ご主人にはその点を十分に念頭において頂きたいと思います。」
私「はい。分かりました。」
日吉「入院後に、色々な記憶が一部無くなっていましたが、徐々に倒れられる直前の状況にまた戻りつつあります。これを記憶の揺り戻し、と私は呼んでいますが、自分の身の安全が保障された場合に、一度なくした記憶を取り戻す患者さんも多いです。この時に自傷行為が出ると非常に危険ですから、この場合は今しているカウンセリング治療とは別のアプローチの治療も考えていきます。」
私「はい。え……と。吉田、という男を一時妻は忘れていたみたいですが……」
日吉「あぁ。その方なら、昨日の治療でまた少し思い出したみたいです。一時、忘れていたみたいですが、自分の置かれた状況を整理して考えている時に思い出したようですよ。ただ、これもまだ治療の過程の一つですから。」
私「そうなんですね。」
日吉「とりあえず、今処方している安定剤が効果を出していますので、これを継続して引き続き、経過は観察していきます。」
私「よろしくお願い致します。」
遥香「では、私から。奥様の性感染病は全て問題ありませんでした。ただ…性器の一部に少し傷がついております。これについては、私の方で薬を処方していますが、まだ治癒には至っておりません。ちなみに、生理はそろそろか分かりますか?」
私「12月の最初に来ていました。」
遥香「あぁ。じゃあ、生理不順が起きていなければそろそろですね。分かりました。傷はついていますが、手術は必要ありませんのでご安心下さい。」
私「はい。」
遥香「とりあえず、来月まで入院は継続していただきますが、日吉部長、面会は来月は大丈夫でしょうか?」
日吉「今日この後に、一度診察してみてから決めますが、多分大丈夫でしょう。」
遥香「分かりました。面会については、来月から解禁する方向で調整します。」
私「はい。」
遥香「説明は以上です。他に何かご質問はありますか?」
私「うーん。大丈夫です。」
遥香「分かりました。では、奥様の病室へ戻っていただいて大丈夫です。5時半には日吉先生が診察したいので、あと10分くらいしかありませんが。」
私「分かりました。ありがとうございます。」
私は頭を下げて、処置室を出ると、妻の病室へと戻った。
※元投稿はこちら >>