日曜日の夜に母親は実家へ帰り、私は子供達の育児と家事に追われる日々になった。
月曜日は義母が妻の見舞いに付き添い、妻の様子を聞いたら、すこぶる元気とのことだった。
産婦人科の担当女性医師からも、今のところは、自傷行為もなく、精神的には安定している、との経過を聞かされた。
義母から、妻の着替えを受け取る。
義母「下着だけだから量はないけど、院内の洗濯機だと、お金もかかって、使いづらいみたい。」
義母から、そう聞いたので、これからは面会出来ずとも、毎日着替えの下着は交換に行くことにした。
クリスマスイブの朝、子供達を学校や幼稚園に送り出した後で、おもちゃ屋に行って子供達のプレゼントを購入していると、高橋さんから電話が入る。
高橋「もしもし!Kさんですか!?大変です!吉田社長と連絡がつかなくなりました!万一に備えて妻には連絡しておきましたが、奥さんにもしものことがあったら大変なので、連絡しました!」
私「え?もしかして……。」
高橋「家に行ってみたんですが、誰もいなくて。まぁ、あの人独身だから、本人がいなければ当然不在なんですが。ただ、もしかしたら、と心配になりました。」
私は直ぐに子供達のプレゼントを購入すると、買ったプレゼントを車に積み込んで、妻の病院へ車を向かわせた。
病院に着いて、6階の病棟のナースステーションに行く。
私「すみません!621号室のK.Yの夫なんですが!」
看護師「はい。どうしました?」
私「いや、妻は大丈夫かな、と思いまして。」
看護師は拍子抜けした顔をして
看護師「何がですか?K.Yさんなら、いつも通りに過ごされてますが。」
私「そうですか………。良かった…………。あ、着替えの交換持ってきたんで、妻に渡してもらえますか?」
看護師「あ、はいはい。今、奥様から着替え受け取ってきますね。というか、ご家族は面会出来ない指示なんで、病棟にいられると困りますので、家族待合室にお願いします。」
私「あ、すみません。お願いします。」
私は、家族の待合室にいると、産婦人科の担当女性医師が入ってきた。
遥香「どうしたんですか?病棟まで来て。まだ、ダメですよ。」
私「すみません。ちょっと……。」
遥香「何か言いたそうですね。分かりました。こちらで話をうかがいます。」
そう言うと、女性医師は病棟処置室の個室へ案内してくれた。
遥香「で、どうされました?」
私「あの。妻をああした犯人の1人と連絡がつかなくなりまして……。」
遥香「あぁ。I社の吉田社長?でしたっけ?」
私「はい。急に連絡が取れなくなった、とI社の者から連絡を受けたので、妻の身に危険が及んだら、と思って。」
女性医師はきょとん、とした顔をした後で、大きな声で笑った。
遥香「あはははは(笑)なるほどね(笑)そういうことか(笑)あはははは(笑)」
私「いや、心配になるじゃないですか!何かおかしいですか!?」
遥香「あー、ごめんなさい(笑)うん。そうですよね(笑)心配になるのは当然です(笑)でもね、奥様は、大丈夫ですよ(笑)」
私「え?どうして?」
遥香「さぁ?ただ、奥様をレイプした5人なら、もうこちらで特定しましたから。」
私「えぇ!???5人!!な!!警察に連絡したんですか!?」
遥香「まさか。そんなことするくらいなら、とっくにしてますよ。ただ、結果的に、彼らには逆にかわいそうなことになったみたいですね。」
私が訳の分からない顔をしていると、女性医は続けた。
遥香「1人だけでも分かれば、後はいくらでも分かりますよ。やり方さえ知ってれば。今頃、5人とも無事じゃないんじゃないかしら。私、とってもこわぁーい人達とも知り合いなんで。あ、でも一人だけ若い子がいたみたいだから、その子はギリギリ助かったんじゃないかしらね。ただ、もう生殖機能はなくなってるかもしれませんが。」
綺麗な顔をした女性医は、その顔とは裏腹にとてつもない発言をした。
私「でも、うちの会社、吉田社長に損害賠償請求してるんですが?」
遥香「あ、それも大丈夫じゃないですかね?財産差し押さえること自体は。ただ、これは私も法律家じゃないですからね。ただ、会社の弁護士には、すぐ連絡しといた方がいいですよ。」
私「は、ははは。そう……します。」
遥香「うーん。今日はクリスマスイブですからね。大丈夫かしら?」
女性医は処置室の電話を取る。
遥香「もしもし、産婦人科の日下部です。精神科の日吉先生は……。お願いします。…………もしもし、日下部です。日吉先生、K.Yさんのことなんですが、本日、ご主人と短時間の面会させていいですか?……はい、………はい、……はい………分かりました。ありがとうございます。え?……あ、うちは問題ありません。……はい、分かりました。失礼します。」
女性医は電話を切ると、私に向き直った。
遥香「精神科の担当医から短時間ならば面会してもいい、と言われましたが、どうします?」
私「え?いいんですか?」
遥香「無理そうなら、私が止めますよ。」
私「お願いします!」
私は女性医に頭を下げた。
遥香「じゃあ、ついてきて下さい。」
私は女性医師の後に続き、歩き621号室の前に立つ。
遥香「ちょっと待ってて下さいね。」
そう言うと、医師は妻の病室に入った。
1分くらいで医師が出てくる。
遥香「どうぞ。奥様も中で待ってます。」
私は深呼吸を一つして、病院の扉の取っ手に手をかけた。
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