翌日、私が会社に出勤すると、課長が飛ぶようにやってきた。
課長「部長が出勤次第直ぐに部長室へ行くぞ。」
私「え?私何かしました?」
課長「すまん。私には分からん!」
9時になり、部長が出勤すると、私は課長と共に部長室へと入った。
部長「おはよう。K君。今からすぐにI社へ行こう。」
私「分かりました。」
部長「法務部の車で行くよ。」
私「法務部。分かりました。」
私と部長、課長は法務部の担当者と共にI社へと向かった。
法務部担当が行くということは、高橋さんが動いたのだろう、と予測がついた。
しかし、何故うちの部長が動いたんだろうか。
車の中で色々なことを考えていると、部長が私に声をかけてきた。
部長「システムは今週には導入出来るんだね?」
私「あ、はい。間違いなく。」
部長「そうか。分かった。君には苦労をかけてしまったようだ。私は、君達にどう報いることが出来るだろうか。」
課長「部長、あのー、報い、とは?」
部長「課長は知らなくていいことだ。さて、I社にもうすぐ到着するぞ。」
車はI社に到着する。
受付担当に部長が声をかける。
部長「いつもお世話になっております。Nシステムソリューション、システム企画部の山本です。本日は新システム導入に関して吉田社長に話があって参りました。」
受付「少々お待ち下さいませ。」
受付の女性は電話で私達の来社を伝えた。
受付「お待たせ致しました。こちらへどうぞ。」
私達は社長応接室へと通された。
全員が無言で椅子に座る。
部長から出されるオーラがピリピリと伝わってきた。
やがて、吉田社長と高橋さんが入ってきた。
吉田「これは、これは。山本部長自らご苦労様です。何か問題でも起きましたか?」
部長「いえ。本日は新システムの導入前のご挨拶に参りました。」
吉田「おぉ!ようやく導入出来ますか!それは、良かった!」
部長が私に目配せをした。
私「金曜日の夜に御社の社内ネットワークに接続させていただき、月曜日から本格的に始動する予定であります。」
部長「この度は導入が遅れてしまい、申し訳ございません。」
吉田「いやいや、いいんです、いいんです。但し、やはり遅れは遅れ。弊社にも損害が生じてしまいましたから、その補償をお願いします。」
やはり、この男は卑怯な男だ。
妻をあれだけ弄んでおきながら、それでもまだ足りないか。
私は唇を噛み締めた。
部長が口を開く。
部長「補償?なんのことでしょう?」
吉田「おや、N社の山本部長ともあろうお方が、ビジネスの世界の約束を知らないようだ。高橋君。」
高橋さんが、書類を山本部長の前に置いた。
部長「3900万……ですか。」
吉田「弁護士と相談し、本来ならば4000万と言いたいところですが、御社の日頃の熱心な担当者に心うたれたので100万は値引きさせていただきました。これは私からの温情です。」
部長「なるほど。分かりました。これは会社に持ち帰って検討させていただきます。」
吉田「争うならば、争っていただいて結構ですよ。」
部長「いえいえ。争う気など毛頭……但し、こちらにも言い分があります。」
部長が法務部の担当者に目配せすると、法務部の担当者が立ち上がり、鞄から分厚い書類を吉田社長の前に出す。
その書類を見た瞬間、吉田社長の顔が豹変した。
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