朝6時。
真冬では、まだ陽が昇る前の時間だ。
リビングに入ると、既に梢さんが着替えてリビングにいた。
梢「あ、おはようございます。さっき私も降りてきたんで。」
私「おはようございます。早いですね。」
梢「いえ。それよりも、朝食準備しちゃいますね。昨日こちらに戻る前に食材買ってきたんで。キッチンお借りしてもいいですか?」
私「あ、はい。食材のお金は?」
梢「あ、大丈夫です。これくらいはうちでさせて下さい。」
私「いや、悪いですから。」
梢「気使わないで下さい。これくらいしないと、私が自分のこと許せないんで。」
私「そうですか。では、お言葉に甘えます。」
梢「ありがとうございます。」
梢さんは、駐車場に止めてある車から食材の入った袋を持ってきた。
梢「Kさんや、お子さんとか、何か食べられないものありますか?」
私「ないです。ただ、三郎はふりかけごはんしか食べませんが(笑)」
梢「うちのまりんも似たようなものです(笑)」
そう言うと、梢さんはお米の袋を開けてご飯を炊き始めた。
梢さんは流石専業主婦だけあって、一度、妻とうちのキッチンを使っただけで、何がどこにあるかは私よりも詳しかった。
20分くらいすると、高橋さんがスーツ姿で降りてくる。
高橋「おはようございます。」
私「おはようございます。」
高橋「あ、母さん。朝食はいらないから。今日はちょっと早く会社に着いておきたいから。」
梢「分かった。」
高橋「洗面所お借りします。」
私「どうぞどうぞ。」
高橋さんはスーツの上着を椅子にかけ、洗面所で軽く顔を洗い、歯を磨いた。
高橋「よし。行ってくる。」
梢「行ってらっしゃい。くれぐれも社長には気をつけて。」
高橋「あぁ。分かってる。」
高橋さんはスーツとバッグを持ち家を出ていった。
梢「昨日、寝る前に夫が話してました。少し早いけど、今日、吉田社長と勝負に出る、と。」
私「勝負?」
梢「詳しくは分かりません。けど、夫なりに何か覚悟を決めたみたいです。これで失敗したら、私達家族は会社を去らなきゃいけないみたい。」
私「そう……なんですか。」
高橋さんの勝負というのが、非常に気になったが、私はとりあえず、長男の一郎を起こした。
一郎は目をこすりながらリビングに入ってきた。
一郎「う~ん。お母さんは、大丈夫だったの?」
私「うん。ちょっと急な仕事で疲れたみたいだな。暫く病院に入院するけど、大丈夫だから心配するな。」
一郎「そうなの?お仕事辞めればいいのに。」
私「うん。仕事は辞めることにしたみたいだよ。」
一郎「そっか。あれ?おばさん?」
梢「一郎君おはよう。お母さんが病院に入院したから、代わりにおばさんが朝御飯用意しにきたんだ。」
一郎「え?そうなんですか?お父さん、お父さんがやればいいじゃん。」
梢「お父さん、昨日の夜遅かったから、おばさん手伝いにきたの。これからお母さんが退院するまで、たまには、おばさんのご飯で我慢してくれる?」
一郎「僕は大丈夫ですけど。何か昨日から、おばさんに悪いですよ。」
私「一郎、あまり遠慮しすぎると、おばさん困っちゃうから。とりあえず、学校の準備しなさい。」
一郎「はーい。」
そう言うと一郎は二階の子供部屋に上がった。
梢「礼儀正しくて、いいお子さんですね。」
私「妻が普段大人の人に対する言葉遣いはしつけてますから。」
梢「Yさんらしい(笑)普段からKさんのこと、主人って呼ぶのYさんくらいですよ。皆、旦那とか、ひどい人なんて、うちのハゲ、とか言ってる人いるのに(笑)」
私「あ、そうなんですね(笑)」
梢「やっと、ちょっと笑えましたね。」
私「あー。うん。そうですね。」
梢「とりあえず、Yさんがいない間は私達夫婦も手伝いますから、Kさんはお子さん達のパパをしてあげて下さい。」
私「ええ。そうですね。本当に。」
一郎が着替えてランドセルを持って降りてきた。
梢さんは、トーストとハムとスクランブルエッグそれとオレンジジュースを食卓に置いた。
一郎は、出された朝食をかきこむように食べて、歯磨きをすると、「いってきまーす!」と大きな声を出して学校へと出発した。
梢「お待たせしました。Kさんの朝食です。」
私の座る席の卓上に一郎と同じメニューが出された。
スクランブルエッグは甘い味付けをしていて、非常においしかった。
朝食を食べ終えると8時近くになっており、私は二郎と三郎を起こした。
二郎は一郎同様、母親がいないことを不思議に思っていたが、一郎と同じ説明をすると
二郎「じゃあ、病院で一杯寝て早く帰って来て貰わないとね!」
と言って幼稚園の園服に着替え朝食を食べ始め、三郎は、朝からまりんちゃんが家にいることにはしゃいで早速遊び始めていたが、まりんちゃんが朝食を食べ始めると、隣で一緒に朝食を食べていた。
私は課長に本日高橋さんが打ち合わせに向かう旨のLINEをした後に、妻の着替えを5日分、バッグに詰め、その間、梢さんは洗濯物を干していた。
8時半になり、全員朝食を食べ終えると、梢さんは、
手際よく食卓を片付けていった。
私一人では、とても出来なかっただろう。
やはり、高橋夫妻に助けてもらったのは大正解だった。
8時50分には出掛ける準備が整うと、梢さんは子供達を車に乗せた。
梢「じゃあ、お子さん達、幼稚園に連れていっちゃいますね。もしよければ、帰り私迎えに行きますよ?」
私「う~ん。大丈夫です。私は妻に面会出来ないみたいですし。多分迎えにいけますよ。」
梢「多分、お子さん達、バスで帰るんでしょうけど、じゃあ、幼稚園にはKさんが迎えに来ること言っておきますね。」
私「ありがとうございます。」
梢「いえいえ。これ私のLINEのIDです。もし、迎え厳しいようであれば、いつでも言って下さい。」
私「分かりました。」
梢「じゃあ。」
二郎「パパー!行ってきまーす!いってらっしゃーい!」
三郎「いってきまするー!」
二郎と三郎は梢さんの車の中から大きく挨拶をすると、梢さんはお辞儀をしながら、車を出発させた。
私は妻の着替えを車に積んで家の戸締まりをして、妻の入院する病院へと向かった。
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