病院の待合室で待っていると、看護師の人に診察室へ入るように言われる。
私は1人診察室へと入る。
診察室には女性医師が電子カルテを入力しており、私が入るなり、私の方へ向き直る。
首から下げたネームプレートには日下部遥香と書かれていた。
遥香「まず、奥様の容態からお話します。体には異常な所見は認められません。が、念のため、緊急避妊用のお薬を処方しておきます。あと、性感染症予防のための抗生剤もです。」
私「はい。」
遥香「それから、PTSDの所見が認められます。詳しい診察は精神科の専門にお願いするつもりですが、まずは、明日から私の普段勤務する病院へ転院していただきます。」
私「PTSD……妻は大丈夫なんでしょうか!?」
遥香「今のところは。記憶障害の症状が出ているので、普通に話したりはしています。ただ、いつ症状が出るか分からないのが、この病気なんで今はまだ何とも言えません。」
私「入院先は?」
遥香「C県T市にある県立メディカルセンター病院です。精神科もありますから、治療も連携しながら行います。」
女性医師の勤務する病院は、電車で30分くらいのところにある病院だった。
私「分かりました。私は、明日はそちらへ行けばいいんでしょうか?」
遥香「そうですね。午前9時半から受付なので、窓口で入院手続をお願いします。」
私「ちなみに、入院期間は?」
遥香「とりあえず、1ヶ月です。」
私「1ヶ月ですか……長いんですね。」
遥香「いいえ、本当ならばもっと長く、と言いたいところです。ですが、具体的な症状がないと病床の関係で1ヶ月が限度なので。」
私「そうなんですか。」
遥香「あと、1週間、いえ、2週間は同居のご家族との面会は禁止させていただきます。」
私「え?では、付き添いや看護は?」
遥香「親御さんは、ご存命ですか?」
私「あぁ、はい。妻の母親がいます。」
遥香「では、年内は、もし可能ならばお母様にお願いしてもらって下さい。」
私「はぁ……しかし……」
遥香「ご安心下さい。お母様への症状説明はそれなりの内容で話をしますので。」
私「ありがとうございます。何故家族は面会禁止なんですか?」
遥香「大事なのは倒れた時の状況なんです。ご家族と会った時に倒れられた、ということは、心的に負担が大きいのはご家族だと思われます。」
私「そう……ですよ……ね。」
私は、涙があふれ出てしまった。
妻に全てを押し付けてしまった。
何の責任もない妻に負担を強いていた自分自身の甘えに腹がたって仕方なかった。
遥香「冷たいことを言いますが、今更泣いても、時間は元には戻りません。なら、これから先をどうするかについて考えるべきですよ。」
私「……はい。」
遥香「それと、一緒に来ていた女性を呼んで下さい。」
私は、待合室にいる梢さんを呼んだ。
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