私は定時で会社を上がる。
駅前で高橋さんと落ち合うと、高橋さんはいつにも増して真剣な表情をしていた。
喫茶店で二人共コーヒーを頼み、テーブルにコーヒーが用意されると、高橋さんは口を開いた。
高橋「今日、社長は出張と言いましたが、どうやらここに来ているようです。」
私「え!?」
高橋「出社してから、9時半過ぎに妻から電話があり、今から社長が来る、と。」
私「そう……なんですか。」
高橋「金曜日の映像、見ましたよ。決めました。私は吉田社長に反旗を翻します。」
私「えぇ!!」
高橋「社内クーデターを起こします。上手くいくかは分かりませんが……ね。」
私「しかし……どうやって?」
高橋「吉田社長、私は裏切ることはない、と思って経理に入れたんでしょうが、それはホントは大間違いなんですよ。経理にいると、社長のアキレス腱なんて、いくらでも掴めます。」
私「あぁ。……確かに、そうかもしれないですね。」
私も入社して以来、一度だけ地方支社の経理を2年程経験したことがあるので、高橋さんが何を言いたいのかは理解出来た。
私「しかし、うちとの取引は……」
高橋「Kさんの会社に迷惑はかけません。ただ、今は我慢して下さい。吉田社長は鼻がきく。下手に感づかれると、私もKさんも窮地に追い込まれます。」
私「なるほど。」
高橋「吉田社長のところへ入社してから約5年。本来ならば、もう少し時間が欲しかったところですが。5年かけて大体、吉田社長に多少なりとも反感を持っている重役は把握しました。」
私「私はどうすれば?」
高橋「Kさんは、とにかく今の仕事に注力して下さい。新システムが社内で支持されれば、私にとっても力になります。うちの社員も今回の新システムは全員が注目しています。これまで使っていたシステムは古くて、使いづらいと言われていましたから。」
私「分かりました。」
高橋「あとは、奥様がどれだけ耐えられるか……。」
私「私としては、一刻も早く助けてあげたい。」
高橋「分かっています。吉田社長が外に出れば、それだけ私も動きやすい。」
私「……………あっ!」
高橋「そういうことです。私も妻に話をします。」
私「分かりました。私もそれとなく話をします。」
そう言って、私達は喫茶店を出て妻の待つ自宅へと帰っていった。
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