吉田社長、高橋さんと飲んだ段階で11月末のシステム導入まで1週間を切っていた。
私は作業の遅れを取り戻すために、土日も休日出勤をしたが、やはり一人では焼け石に水だった。
そして週が明けた月曜日、いよいよI社から課長へ連絡が入った。
課長「いや、そんな!………しかし。………はい、………はい、………はい、……かしこまりました。上と相談はしてみます。……はい、……失礼致します。」
電話を切った課長は私を呼ぶ。
課長「K。金曜日、社長と飲んだ時、何を言われた。」
私は、すぐに損失補てんのことだと悟る。
私「吉田社長が酔った勢いでしたが、帰りのタクシーに乗る直前で導入遅れの損失補てんのことを話していました。」
課長「そうか……。いや、お前のことだから、飲みの席で失態を演じるようなことはしないと分かっているのだが、今更になって日額50万の計算で損失補てんを求める方向を考えている、と先方から連絡が来た。」
私「そうですか。やはり、揺さぶりをかけてきましたね。」
課長「とりあえず、俺は直ぐに上に報告に入る。とにかくお前は工程が少しでも早く終わるよう作業を急がせるんだ。」
私「分かりました。」
私は直ぐに各チームの責任者に損失補てんの件について話をして、作業を早めてほしいと伝達する。
私は自席で自分の作業をしながら、金曜日の高橋さんの言葉が頭の隅によぎった。
『自分の奥さんを社長に差し出した人がいたんですよ』
私は今まで地方に出された上司や同僚の歩んだ道のりと家族のことを考えた。
地方に転勤になれば、給料も今の半分くらい水準になり、単身赴任の二重生活は難しい。
引っ越しをすれば、子供達も環境が変わってしまうし、親も来れるような距離ではなくなり、妻もパートには出ずらくなるだろう。
なにより、私だけの問題でなく、今共に仕事をしている仲間にも少なからず影響は広がってしまう。
そんなことだけは絶対に回避したい。
それならば……
考えに考えた末、夕方になり、私は高橋さんに電話を入れた。
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