タクシーの中で父とじっくりと話し合った。よく考えてみると父とこうして真剣に話をした記憶は今まで一度もなかった。
「ともひさの嫁さんだけど…」
どうやら父は私と妻の離婚について心配しているようだった。
「今まで隠していたが、私の愛人だった女なのだ。」
私は衝撃を受けた。聞いた瞬間その言葉の意味が分からず一時的に思考回路が完全に止まってしまっていた。だが、少しずつその言葉の意味が理解できるようになると父に対して怒りにと似た感情が芽生えてきた。
「なぜあんな美人がともひさの結婚相手になったのかわかるか?」
私はそれが今までずっと謎だった。妻との出会いは偶然なものであると思っていたが、どうやら話を聞いていくと父に仕組まれた結婚であったということがわかってきた。
「ともひさには悪かったが、あいつを愛人として囲っていたが、あいつほど美人でいやらしい女を俺は今まで見たことがなかったんだ。あいつも一人前に結婚を考え始めやがって、俺との関係を終わらせたいと言ってきたんだ。だが、俺はそれを許す気にはなれなかった。あいつを手放すことなど考えられなかった。そこで俺は、ともひさの嫁にすれば、あいつは俺から逃れられないと思っていた。だが、結婚してからのあいつは俺と顔を合わさないように実家に来ることはほとんどなかった。たまにあいつが帰ってきてもそっけない態度を取るようになっていた。しばらくはともひさに対して嫉妬で怒り狂いそうだったが、程なくして俺は糖尿病を患い勃起できなくなった。そうなると単純なものだ。女を抱くことが出来なくなった俺はあいつのことなどどうでもよくなっていたのだった。だが、あいつはともひさだけでは満足出来ない女だろうと思っていた。案の定、あいつはともひさや俺に分からないように浮気を重ねて身体の関係を他の男と持っていたようだった。だが、俺はそれでも仕方がないと思った。全ては俺のわがままから始まったものだったから、俺自身は納得することが出来た。しかし、ともひさには悪いことをしたと今でも後悔している。ほんとすまなかった。」
父の話は私にとってあまりにも衝撃が大き過ぎて父の言うことをイエスと言わざるを得ない状況に追い込まれていた。
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