寺沢が住んでいたのは市営住宅だった。何度か家に行ったこともあったが、お世辞にも綺麗な場所ではなかった。一応コンクリート建のマンションだったが隣の物音が聞こえるなど、杜撰な建築だったに違いない。久しぶりに寺沢の部屋に入ると彼は机の引き出しから何やらヘッドホンみたいなものを取り出してきた。
「このヘッドホンを耳に当ててみな」
私は寺沢に言われるままにそれを耳に当てた。ヘッドホンからはコードがでていた。その先には集音器のようなものが付いていた。寺沢がそれをベッドの置かれている壁に当てた。
「いやぁん…はぁん…気持ちいい…ぁあん…もっとぉ…」
私は耳を疑った。AVなどで聞いたことがあった喘ぎ声が寺沢の部屋の隣からヘッドホンを通して聞こえてきたのである。しかも、それはAVなどではなく非常に生々しい生身の人間のリアルな喘ぎ声に私は狼狽した。
「て、寺沢…これって…」
「あぁ、セックスの声だろうな」
「セックスって…」
「たまたま隣から苦しそうな声が聞こえてきて、自作の集音器を壁に当てて音を聞いたら、こんなのだった。」
「いや、これは凄すぎる。なぁ、これって毎日なのか?」
「あぁ、ほぼ毎日だ。正確には24時間いつでも聞こえるぞ」
「えっ?24時間って…どういう人間がこんなことしてるんだい?」
「当然そう思うよな。どうやらここは人妻のヤリ部屋みたいなんだ。使っているのはここの住人。ちなみにそこの部屋を借りているのは弁護士みたいなんだ。法律をうまくかいくぐったやり方で主婦たちの性欲とそれに群がる男の欲望をうまくマッチさせているみたいなんだ。」
「それより、これはいつ頃から始まったんだ?」
「もう半年以上になるかな?廊下ですれ違う女はみんな顔を伏せてそそくさと部屋に入っていくし、毎回毎回違う女と男が出入りしているからな。」
「それはそうと私に相談って…」
「あぁ、それについてはこれをまずは聞いてもらおうと思ってたんだ。」
私はなんとなく寺沢の言いたいことがわかったような気がした。
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