めぐり合わせというのは不思議なものです。
以前、私に商品の在庫を聞いてきた男の子が、今日アルバイトとして入ってきたのですから。
しかも彼の教育係には私が充てられたのです。
「今日からあなたの教育担当になった、瀬野です。瀬野亜希子。この前までお客さんだった人と一緒に働くことになるなんてなんだか不思議ね。こんなおばさんだけど、よろしくお願いしますね」
『は、萩野拓也です。よ、よ、よろしくお願いします!』
アルバイト初日の彼は見るからに緊張していました。
しかも、私が彼の顔を見ただけで耳まで真っ赤にして。
ウブな感じがなんだか可愛い。
彼は私の話を熱心に聞いてくれました。
どんな小さなことも漏らさずメモにとっています。
分からないことがあれば私を頼ってくれます。
彼は私を必要としてくれている。
そのことがとても嬉しかった。
彼の教育係になって一週間ほど経ったある日。
バックヤードで品物の在庫チェックを彼と一緒にしていたときのことです。
突然、彼が私に聞いてきました。
『亜希子さ、、いや、瀬野さんて、家ではどんな奥さんなんですか?』
「えっ? 何よいきなり 笑」
『あ、いや、結婚指輪してるから、家ではどんな様子なのか気になっちゃって、、』
「家での私...」
そのときの私の表情は明らかに曇っていたと思います。
それに、言いたくないことが多すぎてすぐにはうまく答えられませんでした。
『あの、答えたくなかったらいいんです、、すみません、変なこと聞いちゃって』
「そうじゃないの。ただ...家ではいろいろあって...」
いつのまにか、私の目からは涙が溢れていました。
「私ったらダメね、仕事中なのに...」
そんな私を彼は何も言わず優しく抱き寄せてくれました。
私と彼しかいないバックヤード。
彼の肩で私は涙が止まりませんでした。
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