イタリアレストランで夕食を食べたあと、俺たちは夜も開いている水族館に行きました。
そこで水槽のガラス越しに様々な魚の泳いでいる姿をマリコと一緒に眺めました。
中でも俺の目を引きつけたのはイルカでした。マリコがガラスの水槽に手をやると
イルカがやってきて鼻をガラス越しにくっつけてきました。
近くで見るイルカの顔はかわいいですよね。
俺はぼんやりと中学生のころみていた夢の事を思い出しました。
俺はそのころ自分がイルカのからだになって海の中を泳ぐ夢を時々みていました。
空からは明るい光が見えない深海まで刺しこみ、光の柱の中をイルカになって泳いでいると、
向こうの群青色の中から別のイルカが現れます。それは可愛い眼をした女のイルカなのです。
偶然に海の中で出会ったふたりのイルカ。
女のイルカは、からかうようにぐるぐると俺の回りを廻った後近づいてきて、
鼻と鼻をぶつけたり、俺のからだをしっぽで叩いたりしますがそれ以上のことはしません。
ついに俺が頭にきて追いかけるとそこで交尾になるのでした。
今では書いていてけっこう恥ずかしい話ですが、中1のころの性に目覚めた俺の見た夢なのでした。
となりのマリコを見ると青白い水槽からの光に照らされて、うれしそうに水槽を見ている
マリコの横顔がその時のイルカに重なって見えてくるのでした。
ロマンチックなデートとは裏腹にマリコの奔放な男関係は止まりませんでした。
俺が仕事でマリコが休みの時でした。4時ごろ俺の携帯に中学時代の親友に会っているので帰り
が遅くなるというメールが来ました。すぐに何時に帰るのかメールしましたが返事は
ありませんでした。夜の12時ごろ酒に酔って足元もままならぬ状態でタクシーで帰ってきました。
「ごめんなさい。友達とカラオケで飲んでたら飲みすぎちゃって」
俺は肩で支えてマリコを寝室のベッドまで運びました。マリコはすぐに眠ってしまいました。
俺はマリコのハンドバッグを自分の小さな書斎に持ち込むと、バッグの底に仕掛けていた
盗聴器を取り出しました。そしてパソコンにつなげると再生音をイヤホンで聞きました。
音質は悪くところどころしか聞き取れませんが、アプリで補正をすると少し聞きやすくなりました。
今日の午後4時ごろ誰かが家に迎えに来ていました。聞いたことのない若い男の声です。
車の中の音楽がうるさいのと、改造車なのかエンジンの排気音が大きくて会話がほとんど
聞き取れません。時々大声で笑うマリコの声がしますが、男の声は何を言ってるかわかりません。
1時間半ほどして車が止まりエンジン音と音楽が止むと、急に会話が聞き取れるようになりました。
「海だー、気持ちいいわー、やっぱ海はいいねー。」
たぶんA海岸の公園に来ているのでしょう。ここには近くに灯台もあって、今日はいい天気だったので
景色は最高だったはずです。しばらくすると別の車が近くに止まったようでした。やはりかなりの
排気音量でした。男は全部で4人か5人。女はマリコひとり。どうやらそこで酒盛りが始まりました。
ひとりは酒が飲めないらしく運転係のようでした。20歳くらい。
A公園は夜は暴走族のたまり場になっているという話を聞いたことがあります。まさか
その群れの中にマリコがいるとは、夫の俺ですがそれまで全く知らなかったのでした。
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