子供の頃には見えなかった、奥村さんの畑やビニールハウス。それはお店の裏にあり、回りがブロック塀で囲われているため、子供の目線には入りません。
しかし、20歳を越えた今では、ちゃんと目にすることが出来たのです。
おじさんの葬儀から、約1ヶ月。不意に町内の路地を歩いた時に、そのことに気づかされます。
そこには、畑仕事をするおばさんの姿がありました。きっと、お店は二人の子供が仕切っているに違いありません。
店主のおじさんは亡くなりましたが、ちゃんと息子や娘達への代替わりは出来ているようです。
僕は足を止め、おばさんの様子を見ていました。紺のジャージを地面につけ、浮いたそこは泥で汚れてしまっています。
葬儀の時に見た沈んだ顔はもうそこにはなく、熱心に仕事をする女性の顔をしていました。
額からは汗をかき、見えない部分も汗で汚れているのではないでしょうか。そんなおばさんを見て、ここでも『きれいな方…。』と思ってしまうのです。
家に帰ると、僕はあるものを探していました。もちろん、父や母には内緒です。普段なら、気にならないものですから。
それは、家のタンスの中にありました。『香典返し』、おじさんの葬儀で頂いて帰ったものです。僕は、そこに書かれている文字に目を向けました。
『喪主・奥村満智子』
これが、あのおばさんの名前だったのです。おじさんのキャラが強すぎて、きっと何度か会ったことがあるであろうおばさんの顔はかき消されていました。
なので、葬儀ではほぼ初対面に近く、もちろん名前すら知りませんでした。『奥村のおばさん。』とは家族の会話に出ますが、実際は何も知らなかったのです。
『お出掛けですか?』、初めて満智子さんから声を掛けられたのは、更に2ヶ月後のこと。畑を覗き込んだ時に、偶然目が合ってしまったのです。
『散歩です。畑仕事、大変ですねぇ?』、僕は咄嗟に返します。それには、『仕事、仕事、』と返してきたおばさん。
しかし、きっと僕がどこの誰なのかも知らないでしょう。お互いに、社交辞令な会話なのです。おばさんは会話を嫌がり、仕事を始めました。
ほんとはもう少し話しもしたい僕でしたが、その場を去るのでした。
『お互いにどこの誰なのかも知らない…。』
きっと、これは嘘です。おばさんはともかく、僕は知っています。長く同じ町内に住み、彼女の名前が『奥村満智子』さんだということも知っているのです。
そして、ブロック塀の隙間から無断で撮影をした、畑仕事をしているおばさんの写真。
それはパソコンに取り込まれ、ことあるごとに画面へと大きく映し出されるのです。
最初こそ遠目で撮られていたものも、最近ではかなりのアップ写真を撮る術も身に付けています。顔はもちろんのこと、うつ向いた時の胸元にまで…。
いつの日にかは、明らかにノーブラの日があり、シャツに僅かに写し出している乳首も確認出来る写真もありました。
満智子さんは『満智子』と呼ばれ、オナペットとして僕の夜を彩ってくれていたのです。
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