着いたのは、僕も知っているレストランでした。昼間は喫茶店をしていますが、夜になるとアルコールも出すレストランへと早変わりをするお店です。
周りを見ればカップル、そしてマダムを漂わせるおばさま連中が食事を楽しんでいました。テーブルには、創作料理が並んでいます。
『お兄さんは車だから、お酒はダメよ。』と満智子さんに言われますが、アルコールは苦手な僕にはラッキーです。
何をどう食べればいいのかも分からないような料理を、とりあえず食べやすいところから、僕は食べていきます。
満智子さんは慣れたように、ナイフとフォークを使って食べていました。その振る舞いからは、大人の女性を感じさせるのです。
そして、出掛ける時に着替えた洋服。柄の入ったネイビーのワンビース、そして同系色のジャケットを上から羽織っています。
それは僕のイメージの中にはなかった満智子さんの姿。ちゃんと洋服を着こなされていて、更に大人の雰囲気を漂わせています。
ただの『苗屋のおばさん』ではありません。
彼女に合わせるように食べていた僕。しかし、頭の中は彼女の言った『ご飯食べたらさぁ~、ホテル行こうかぁ~?』という言葉が繰り返されていました。
経験も少なく、何より熟女と呼ばれる方のお相手をするのは初めてなのです。『うまく出来るのか~?』と、そんなことばかりを考えてしまうのでした。
食事も終わり、満智子さんは口のまわりをナブキンで拭き取ります。そして、先に伝票を取った彼女はこんな会話をするのです。
『どこか知ってるホテルとかある~?』
『別にないです…。』
『どこかあるやろ~?』
『ないです、ないです…。』
『女の子と行ったりしないの~?』
『う~ん…、彼女いないし…。』
『前、行ってたところとかは?』
『エリザベスかなぁ~。』
『ああ、知ってる、知ってる。なら、そこにしようかぁ~。』
と、あっさりと決まってしまうのです。しかし、普通に『知ってる、知ってる。』と答えてしまう大人の女性の大胆さ。
旦那さんの『二日に1回。』は、どうも本当そうです。僕みたいなので、太刀打ちが出来るのでしょうか。
15分くらい車を走らせると、そのラブホテルが見えて来ました。屋上にネオンでホテル名が光っていて、2年前と変わっていません。
しかし、『あれ?ネオンが消えてるねぇ。エザベスなはなってるよ~。』と満智子さんが言います。確かに、『リ』が光ってません。エザベスになってます。
『お店の名前、変えたみたいねぇ~。』とからかいながら、僕達はホテル・エザベスへと入って行くのでした。
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