格子の磨りガラスドアを開けて中に入る。
市役所の部長さんの家にしては立派な雰囲気がある。
元々金持ちなのか、相当悪いことでもしないと、これほど豪華な調度品や絵画は揃わないと思った。
皮張りのソファーに腰を下ろす。
足元にバッグを置いて、直子の落ち着かない仕草を黙って見ている。
「あの夜のことで来たのよね」
おどおどしながら尋ねてくる。
「そうではないけど、場合によっては乱れ狂ってたことも話さないといけなくなるかな。今日は別の用事で来たんだよ」
「別の用事って何かしら?」
「愛ってお宅のご主人の部下の奥さんのことさ」
「な、何? 愛がどうかしたの?」
「あんたの部下じゃないんだから、つまらん用事でこき使うなよ、迷惑なんだよ」
「あなたに関係ないことよ、構わないで」
「強気だな、じゃあこの画像をご主人の職場に送りつけようか」
「何馬鹿なこと言ってるのよ、犯罪じゃない」
「そうなるかならないか、あんた次第だけどな」
「そんな脅しにのるとでも思ってるの?」
「乗ってもらおうか、この動画高く売れそうだからなぁ」
「そんな事したら、警察に訴えるわよっ」
「なかなかの強気だね、訴えてもいいけどあんたも旦那も、無傷じゃ済まなくなるよな。利口なやり方じゃないぜ」
「嫌よ、絶対に許さないから」
「ははは、そんなに気負っても仕方ないだろ、お高くとまった部長さんの奥さんが、見ず知らずの男にこんなにされてる動画が世間に知れるんだよ、俺は警察訴えたら恐喝の証拠で刑事やら裁判官やらみんなに見られる。それでもいいんだね。俺は愛のことを駒使いしなければそれで十分なんだけどな」
「赤の他人にとやかく言われたくないわ」
「何様だっ、よしわかった。とりあえず旦那の仕事場に送ってやる」
モバイルPCを取り出し、メール操作を始める。
「ふんっ、主人のアドレス知らないくせに」
「仕方ないなぁ、ちょっと待ってろ」
スマホで三人に合図を送る。
しばらくすると状況もわからないまま、愛と雅人に澄子がガレージ側から入って来た。
「何なのあんた達、勝手に入ってくるなんてどうかしてるわ」
「どうかしてるのは奥さん、あんただよ。まだ虚勢を張るのかい?」
「何で私があんた達に屈しないといけないのよ、おかしいわ」
「おかしいのはあんただ、恥ずかしくないのか俺達はあんたの捻れた性格を改めてさせようとしてるだけなんだけどな。浮気はするし、パワハラする。見ず知らずの俺に潮噴きさせられて逝きっ放しだったのにな」
「ど、どうしろって言うの?」
少し現実が飲み込めて来たようだ。
「愛ちゃん、こいつが苛めてたんだよな。懲らしめてやらないとまだ続きそうだよ」
「やよ、もう勘弁して欲しいわ、雅人の出世も大事だけど、この人だけは嫌よ」
「奥さん、謝らないと、澄子のことを覚えてるだろ、昔からあんたの高飛車な性格で迷惑してたってよ」
「何のことよ、どういう関係なのあんた達」
「それこそ関係ないよ、悪さしたのはあんたで、被害者はこの三人てことだ」
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