この日の仕事を定時で切り上げ、事務所の鍵をかけるため愛ちゃんに
「今日は早く帰りたいから終るよ、愛ちゃん大丈夫か?」
「浩司さんそんなに慌てなくてもいいでしょう、澄子さん待ってるの?」
「ああ、ちゃんと離婚届けを出したか聞きたくてね」
「澄子さんどこにいるの?私も話したいな」
「俺の家にいるよ、電話してみたら。俺は構わないよ」
「いいですか?連絡してみます。仕事終わりました」
事務所に鍵をかけ、駐車場に向かいながら愛ちゃんは澄子に連絡していた。
俺は自宅へ急ぎたかった。
「愛ちゃん先に行くからね」
「澄子さんいいって、浩司さんち場所どこですか?」
「そっか、来たことないよな、後ろからついて来て」
「は~い」
邪魔が入るが、そんなに長居しないだろうと安易に考えていた。
赤い愛ちゃんの車がついてくるのを確認しながら家に戻る。
「愛ちゃん。そこの路肩に停めて、誰も来ないから大丈夫だよ」
ガレージは2台しか停められない。澄子は自分のスポーツカータイプの来馬を停めていた。
横に俺の車を停めガレージのシャッターを降ろす。
玄関に回り愛ちゃんを招き入れる。
澄子も玄関に出て来た。
昼と同じ服装のまま、相手が愛ちゃんだからいいかと深く考えなかった。
「澄子さんおめでとう、離婚届け出したんだって?」
「昼過ぎに出してきた。スッキリ気分よ」
「うちの人いたでしょ、何か言ってた?」
「良かったねって言ってくれたよ」
「そう、浩司さんのこと教えたの?」
「うん、へえって」
「そっか、あの人澄子さんのファンだからね、離婚してすぐに相手がいるって知ったら落ち込んでたでしょ」
「ふふふ、うんまあね。みんなでお祝いしようって言ってくれてたよ」
「そうそう、それそれ、いつがいい?」
「そんなに急がなくてもいいわよ、浩司さんだって都合があるから」
「浩司さんはいつなら空いてますか?」
「明日の夜なら構わないよ、明後日は市場が休みだから寝坊出来るし」
「明日ね、澄子さんいいかな?」
「いいわよ、遅くならなきゃ」
「決まりね、じゃあ場所は浩司さんの家でお願いします。騒いでも迷惑にならないみたいだから」
「ああ、いいよ。でも、あんまり大人数はダメだよ、狭いから」
「親しい人だけだから、全部で四人かな」
「わかった、ありがとう、でもせっかちだな、籍も入れられないのに」
「いいでしょ、おめでたいんだから」
「浩司さん、せっかく愛ちゃんが言ってくれるんだから受けましょ」
「いや、嬉しいんだよ、急な話だから戸惑ってるんだよ」
「愛ちゃん明日またね」
「澄子さんじゃあね」
愛はそそくさと帰っていった。
「キツネにつままれてるみたいだよ」
「何を言ってるのよ、私ここに居るでしょ、さ、ご飯ご飯」
「何だか急に熟年夫婦になったみたいだな」
「籍はまだだけど、実質的な夫婦でいいでしょ?」
「澄ちゃんホントに後悔しないね、俺は澄ちゃんといっしょになれて本当に嬉しい」
「後悔しないよ、随分前からこうなりたかったんだもん」
リビングに入り、テーブルに並んだ澄子の作った料理に暖かさを感じた。
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