次の日曜日でした。朝10時になり、覚えたてのパチスロにでも行こうと家を出ます。車に乗り込み、左にハンドルを切ります。
しかし、すぐに道端で手を振る女性を目にするのです。佐久間さんでした。『おはようございますぅ~。』、窓を開けて声を掛けました。
『ちょ~どよかった!お出掛け~?』と聞かれ、『どうしたんです?』と聞き返します。彼女は助手席に回り、ドアを開きます。
『どこかお出掛け~?』と再び聞かれ、もうこうなると『いいですよ。』としか答えられません。
『ホームセンター、連れていってくれない?』、佐久間さんからのお願いでした。もちろん、『ああ、いいですよ。』と答えました。
しかし、あまりにいいタイミング。それもそのはず、彼女は一時間以上、そこで僕が出てくるのを待っていたのですから。
車内では『なに買うんです?』『ストーブ。』と答えていました。しかし、行ってみると次々とカゴに商品が積まれて行きます。
『ストーブって言ってませんでした?』とからかうと、『あら?そうだったかしら?』と惚けられました。
それでも、佐久間さんの隣でカートを押して買い物するのは楽しいものです。男を退屈させない、そんなテクニックを持っているようで、飽きさせないのです。
年齢差など忘れるほどに、時には僕の方がしっかりしているんじゃないかと思うくらいにフランクに話が出来る方なのです。
ただ、『僕が払いますよ。』と言った時、『絶対ダメっ!そんなことしたら絶対いかんよ?』と言った時の顔は、しっかりものの女性を意識させるものでした。
後部座席が埋まるほどの買い物を終え、車は佐久間さんの家に到着をします。もう、お昼を過ぎていました。
とりあえず、全ての荷物を家に運び入れ、あとは彼女の言葉を待つのです。『ストーブ、出してくださる?』、彼女の言葉でした。
おかげで、安心してこの家に上がり込むことが出来るのです。
初めて入る佐久間さんの家。きっと、僕が子供の頃からずっとあった家です。誰の家かも知らず、20数年が経ってしまっていました。
真っ黒で古い小さな門扉、開くとすぐに玄関があり、右には小さな庭が見えます。扉をを開くと、大きめの玄関があり、中は思ったよりも広そうです。
右手にはリビング、左には小さいですが中庭があって、木がうわり、数個の植木鉢が並んでいました。彼女のちょっとした趣味のようです。
リビングに入り、段ボールからストーブを取り出します。隣には古いストーブがあり、壊れてしまったようです。
『これ、会社で処分しておきますよ。』と言って、壊れたストーブを段ボールの中へと仕舞います。『いいの?』と言われますが、車へと積み込まれました。
その頃、キッチンからいい出汁の匂いがして来ていました。少し気なり、覗き込むと佐久間さんが湯気のなか、台所に立っています。
振り向いた彼女が僕に気がつくと、『おうどん食べられるでしょ?』と声を掛けられ、『食べます。』と返しました。
知らない台所で、知らない女性が料理をしています。こんな光景を見た記憶がなく、僕にはとても新鮮に見えました。
余所行きの服装のまま、その上からエプロンが掛けられ、馴れた手付きで佐久間さんが料理をしているのです。
『ああ、向こうで待ってて。テレビつけてもいいよ。』と言われ、僕が彼女をずっと見ていてしまっていたことに気づかされるのです。
5分後、テーブルには器に入ったうどんと炒飯が並びました。炒飯にも少し手が込んでいて、日曜日のお昼に出される母の手ぬき炒飯とは違うようです。
『さぁ、食べましょ。』と声が掛かり、佐久間さんとの食事が始まります。母のうどんとは違い、少し甘い出汁になんとも言えない抵抗があるのです。
それでも、『おいしいです。』と返しました。『ほんと?よかったわぁ。』と喜ぶ彼女の顔が、何よりの旨味です。
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