【短編エピソード8:最終話】退院当日
退院当日の朝9時、僕は身支度を済ませ、前夜に森咲さんから言われたとおり、病棟の隅にある相談室と呼ばれる部屋の前にいました。おそらくこの部屋は患者やその家族が医師と治療について相談する部屋だと思いますが、いつも部屋の電気は消えていて今ではほとんど使われていないようです。
ガラス戸から見る限り、部屋の明かりは消えています。しかし、ドアノブに掛かった札は“使用中”となっています。僕は恐る恐るその部屋のドアを開けて中に入ります。
『失礼しまーす、、森咲さーん? いますか?』
、、次の瞬間、「ワァッ!!」っという声とともに大きな白衣をマントのように羽織った人影が僕の前に現れました。僕はとっさに目をつむり、それを押しのけるように手を伸ばしました。しかし、僕のその手に触れたのは何やら柔らかい感触。ゆっくりと目を開けるとそこには白衣を羽織った森咲さんの姿。僕が手で触れたのは、そう森咲さんのおっぱいでした。
森咲さんは僕を脅かそうとしていたようですが、僕がおっぱいに触れてしまうことは想定外だったようです。僕はサッと手を離し何度も謝りました。それから2人で顔を見合わせてクスクスと笑いました。
「なんか、へんな空気になっちゃったね」と森咲さん。その責任は僕にあると思い、僕はまた謝ります。ここで、僕の退院祝いをしたかったのだと、森咲さんが言いました。でもこんな狭い部屋で、しかも飾り付けも何もありません。
森咲さんが羽織っていた白衣を脱ぎ、そばにあった椅子に掛けます。そのときふと気付いたのですが、森咲さんはいつものナース服ではなく私服姿。仕事中に付けている髪留めのバレッタも外し、長い髪を下ろしています。マスクもしておらず、口元には艶のある綺麗な色な口紅が塗られていました。
そこにいたのはナースの森咲さんではなく、ひとりの女としての森咲さんでした。
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