【短編エピソード7】退院前夜
退院を明日に控え、僕はベッド周りを整理していました。1ヶ月間も入院していると、なんだか自分の部屋に近い感覚になり、退院してしまうのが少し寂しくも感じます。
最後の診察も無事に終え、あとは退院を待つばかりとなりました。ここに来てからの1ヶ月、たいへんなことも楽しいことも、そしてちょっとエッチなことも、、色々な事がありました。心残りは森咲さんとあまり話ができなかったことです。
その夜、消灯後も僕はなかなか寝付けずにいました。時間は刻々と過ぎていきます。
午前0時、僕はおもむろにナースコールを押しました。ここで森咲さんが来てくれたら、、そんな思いからでした。
廊下の奥から、ナースシューズの足音が聞こえてきます。どんどん僕の病室に近づいてきて、その足音はやがて僕のベッド脇で止まりカーテンが開きました。
「お待たせ...」
なんとそれは森咲さんの声でした。
森咲さんが僕の顔を見てクスッと笑います。
僕の驚いたポカンとした表情が面白かったようです。
森咲さんがカーテンの中に入ってきて、そっとベッドの端に座ります。夢で見た光景そのままです。だとすると、この後森咲さんは掛け布団をそっとめくって僕のパジャマのズボンを優しく下げてくれるはず。
しかし、そう夢のようにはうまくいきません。森咲さんは静かな声で話し始めました。
「田中さんが入院してからもう1ヶ月経つんだぁ、、早いわね、、私、入院初日からあなたのこと気になってたのよ」
『気になってたって? それってどういうこと??』
「もう、、言わせないでよ、、、“好き”ってことよ」
僕は動揺して、森咲さんの言ってることがうまく飲み込めていませんでした。
『えっ?! 嘘、だってそんな素振り全然なかったし、、』
「当たり前じゃない、、あなたには可愛い彼女さんがいるし、私だって人の妻だもの、、」
『ほんとにほんとなの?』
「ええ、ほんとにほんとよ。私が深夜巡回のとき、いつもあなたの寝顔を見てたわ」
森咲さんがまたクスッと笑います。
「ある夜、我慢できなくてあなたの頬っぺにキスしちゃったことがあったの、、そしたらあなた、寝言で彼女さんの名前呼んでた、、それで私は自分の気持ちを隠したの、できるだけあなたと接しないように、、」
森咲さんの表情は物憂げで寂しそうでした。
『僕も、、森咲さんのこと、、、ずっと、好きでした、、』
僕も思い切って告白しました。森咲さんの告白に応えたかったのかもしれません。
『はじめは、、その、、つい、、大っきなおっぱいとかお尻に惹かれちゃったけど、、僕にとって、森咲さんの優しさがなによりの癒しでした、、』
しばらくの間、僕と森咲さんの間に沈黙が流れました。窓の外では救急車のサイレンが鳴り響いています。
森咲さんが先に口を開きました。
「ねぇ、、キスしよっか、、」
僕はドギマギして動けません。そんな頼りない僕の唇を森咲さんが奪います。それは美優とする若いキスとはひと味もふた味も違う、蕩けるような大人のキスでした。
「はぁ、、そろそろ戻らなきゃ、遅いって叱られちゃう 笑」森咲さんが溜息まじりに言います。『もう少しだけ、ねえ、いいでしょ?』と僕が引き止めますが、森咲さんは首を振ってベッドから立ち上がります。
「明日の朝9時に相談室に来て、夜勤明けにそこで待ってるから、、おやすみなさい」
森咲さんはそうとだけ言い残し、いつもの笑顔でナースステーションに戻っていきました。
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