【短編エピソード6】ランドリールーム
その日僕は溜まった洗濯物を洗うためランドリールームにいました。病室に戻ってもとくにすることもないため、洗濯が終わるまでの間、そのままランドリールームの椅子に腰掛け、備え付けの漫画本でも読むことにしました。
ランドリールームには僕だけ、と思いきや、すぐにパジャマ姿の女性の患者さんがひとり入ってきました。松葉杖をついていますが慣れていないのか、一歩歩くのでもたいへんそうにしています。僕はとっさに声をかけました。
『お手伝いしましょうか? 荷物お持ちしますよ』もちろんそのときは下心などなく自然にとった行動でした。その女性は少し恥ずかしそうにしてから、手に持っていたビニール袋を僕に預けました。何となしにビニール袋の中に目をやると、キャミソールなどに混じってサーモンピンクやパステルブルーの女性下着がたくさん入っています。袋を僕に渡すのを一瞬躊躇ったことから考えると、間違いなくこの女性のものでしょう。僕は不意にドキッとしてしまいました。
女性を洗濯機の傍まで連れて行き、預かったビニール袋を彼女に返します。女性は顔を真っ赤にしながら僕にお礼を言ってくれました。僕の役目はここまでと思い、また椅子に戻ります。少し離れたところから女性の様子を伺っていると、何やら困っている様子。僕はもう一度女性のところへ。どうやら洗濯機の使い方が分からなかったようです。ドラム式の洗濯槽の中には、先ほどチラ見させてもらったカラフルなパンティが無造作に散らばって入っています。なかには白く汚れたクロッチの内側がこちらを向いているものまで。僕は股間が熱くなるのを必死にこらえながら、洗濯機のボタンを押します。『あのぉ、乾燥モードはどうしますか? 下着も入ってたように見えたので、、』と僕が申し訳なさそうに聞きます。女性はまた顔を赤くして、「あっ、えっと、パンツが縮んじゃうので、、乾燥は大丈夫ですっ」と明らかに動揺しながら言いました。
お互いにやや気まずい雰囲気になりながらも、洗濯機は無事に回り始めました。「病室まで戻るのが大変なので、終わるまでご一緒してもよろしいですか?」と女性が言うので、僕は笑顔で快諾しました。女性は松葉杖を壁に立て掛け、僕の向かい側の椅子に腰掛けます。
僕はすかさず手首に巻かれたネームバンドを確認しました。《タカハシ カオリ》とカタカナで名前が書いてあります。話を聞けば、家事をしているときに自宅の階段で足を踏み外してしまい、足の骨を折ってしまったそうです。しかも旦那さんは単身赴任中でお見舞いにも来られないんだとか。なるほど、それで溜まった洗濯物を自宅ではなく、ここで洗っていたのだと合点がいきました。
カオリさんは、入院中とあって化粧はしていないようでしたが、しっかりとした眉に目元もパッチリしていて元から顔立ちの綺麗な人でした。ほつれた後れ毛が少し色っぽくも見えます。こんな素敵な女性が入院しているなんてつゆ知らず、もっと早くに仲良くなっていれば良かったと後悔しました。
ずいぶん長くカオリさんと話していたと思います。旦那さんの愚痴やワイドショーの話、僕の仕事の話なんかも少ししました。途中喉が渇いてしまったので、『飲み物を買ってきますよ』と言い、彼女に飲みたいものを聞きました。すると「いちごみるく」となんとも可愛らしい答え。色っぽく見えても中身は乙女なんだなぁとつくづく思いました。
僕が飲み物を買って戻ると、カオリさんが洗濯機の近くで倒れていました。僕は急いで駆け寄り彼女を抱き起こしました。どうやら洗濯の様子が気になって見ようとしたところ、バランスを崩して転んでしまったようです。何処を打ったということもなく、彼女は照れくさそうに笑っていました。彼女はとても華奢な女性でした。それでも女性が持つふっくらとした丸みや柔らかさはしっかりと僕の手に伝わってきます。彼女のパジャマの胸元が少しはだけていました。ブラジャーは付けていないようで、胸の膨らみが重力に負けて少し垂れているようでした。僕は気を取り直して視線を戻し、カオリさんを立ち上がらせようとしました。しかし彼女は「待って、、もう少しだけ、このままでいさせて、、」と僕の腕にしがみついてきます。僕はしばらくの間、うるさく回る洗濯機の影で彼女の身体を優しく抱きしめ続けました。
洗濯機のブザーが鳴り、カオリさんの洗濯が終わったことを告げています。
カオリさんは「ありがとう...」と言って僕に支えられながら立ち上がると、洗濯物を取り出し病室に向かおうとするのでした。
僕は彼女の病室まで付き添い、病室の入口でお互いにかるく会釈をしてカオリさんとはそれっきりでした。
洗濯機の前で僕の腕にしがみついたカオリさんの顔が今でも忘れられません。
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