【短編エピソード1】入院当日
ひとりぼっちの入院はかわいそうだからと、付き合っている彼女が仕事を休んで僕の入院に付添ってくれました。僕の2歳年上の彼女、園田 美優はなにかと僕に尽くしてくれる優しくて母性のある女性です。
僕のことももう少し話しておかなければなりませんね。
僕の名前は田中 康仁、25歳の社会人3年目。有名総合商社に就職し、営業成績も若手のなかではそこそこ上位をキープ。上司からの信頼も厚く、さらに可愛い彼女までいて、、と自分で言っていて怖くなるくらいの順風満帆な社会人生活を送っています。今回の怪我と入院はそんな僕に天罰が下ったとでもいうのでしょうか。
入院当日の話に戻ります。
気休め程度の医療保健には入っていたものの、個室の高額なベッド代に慄いた僕は、迷わず大部屋を選びました。
ベテラン風の看護師さんから入院生活に関する諸々の説明を受けた後、病室まで案内されます。
ベッドが3列並んだ3人部屋の一番奥、つまり窓側のベッドが僕のこれからの寝床です。3人部屋といっても、残り2台のベッドは空いていました。実質、僕専用の個室のようなものでラッキーでした。
僕はベッドに腰を下ろし、『嗚呼、これでしばらく下界とはオサラバか...』と溜息まじりに呟くと、彼女がニコニコ顔で「ここ8階だよね? ちょっとだけ天国に近づいたね♪」と返してきます。本人は悪気はないのですが、ときどきこんなふうなブラックジョークをさらりとかましてくるのです。
面会時間ギリギリまで付き添ってくれていた彼女ですが、そろそろ面会終了の時間です。
エレベーターのボタンを押した後、周りに誰もいないことを確認してから別れのキスをしました。キスが終わるタイミングを見計らったかのようにエレベーターの扉が開きます。彼女が乗り込み、扉が閉まりかけるとき「来週また来るね!ガンバ!」と言いながら可愛らしいガッツポーズを僕にくれ、少し元気をもらいました。
僕は美優を見送り、ひとり病室に戻るのでした。
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