日曜日の夕方だった。
スーパーでカートを押し、惣菜コーナーまで来ていた僕。しかし、いつも遅れてやってくる母がなかなかやって来ない。
仕方なく野菜コーナーまで戻ってみると、そこには母がいて、カゴの中にはほとんど品物が入ってはいない。
それもそのはず、買い物を仕掛けた母は誰かにつかまり、立ち話を始めてしまったようた。近づいてみると、その相手は夕貴子でした。
夕貴子さんの家からこのスーパーは遠く、普段は来ないはずですが、この日はたまたまやって来たようです。
僕は声を掛けるのをやめ、お菓子コーナーで時間を潰し始めます。そこへ現れたのは、いとこの優斗でした。
『いたいた!圭ちゃんっ!』と声を掛けられた僕は、買う気もないチョコレートを手に持ち、彼と話を始めるのです。
正直、僕はこの優斗が苦手です。彼は赤ん坊の頃に大きな病気をしていて、それが原因なのか、少し『変わり者』となっていました。
一見普通に見えるが、学校の授業にもついて行けず、性格も正直と言いますか、人の気持ちも考えずにズケズケと話をしてしまうことがあるのです。
苦痛な時間が過ぎましたが、『圭っ~!』と僕を呼ぶ母の声が聞こえ、どうやら夕貴子さんとの立ち話も終わったようです。
母と一緒にレジに並んだ頃、夕貴子さんも優斗と一緒にレジ袋に買った品物を詰め込んでいました。
僕たちに気づいた夕貴子さんは、『お先に~。』とばかりに頭を下げます。隣の優斗も、『またっ!』という感じで、僕に手をあげました。
一つ年上の彼ですが、僕も手をあげて、それに答えるのでした。
荷物をまとめた僕は、カートを押して駐車場へ向かいます。母は『ちょっと栄養ドリンク買ってくるわ。』と言って、薬局へと駆け込みます。
僕は母を置き、カートを押し始めるのです。遠くに夕貴子さん見えました。カートを仕舞い、駐車場へと向かっているようです。
しかし、隣にいる優斗の手が彼女の腰に巻きつかれています。『えっ?母親にあんなことするかぁ~?』と、自分と母の場合を想定して考えてしまいます。
それでも、優斗に『普通でない。』というイメージが僕にはあるため、『幼いなぁ。』ということで、その場は処理をされるのでした。
車に乗り込んだ僕達でしたが、やはり日曜日のためか混んでいて、なかなか出口にまで出られません。
ようやく1フロアー分下りたところで、7台くらい前に優斗の車を見つけます。『あれ、おばさんたち。』と母に言おうとした時、ある光景を目にするのです。
1フロアー分上にいる僕からは、優斗の車の中はよく見えました。それは、運転している優斗がおばさんの肩を抱き、ふざけている様子でした。
ふざけているというより、助手席の女を引き寄せて、彼氏のように話をしているように見えます。さっきの腰に回した手と言い、我が家とは違うようです。
しかし、優斗が更におばさんを引き寄せ、頭にキスをしてしまうのです。『えっ?』、僕の身体の中に得たいの知れない感情が沸き出てきました。
『なにしてるんや、アイツ…。』、その時の僕は優斗のことばかりを責めていました。『おばさんは何も悪くない…。』、勝手にそう決めつけていたのです。
そして、見返したその時、一人の目が僕の方を見ていました。夕貴子さんでした…。僕達の車に気がついたのでしょう。
完全におばさんと目があってしまった僕は、もう二度とそちらを向くことはありません。とても恐くて、見れないのです。
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