【65】
僕は、恐る恐るメールを見た。
『家の前に居るから出てこい』
それが、メールの内容だった。
何の用事があって来たのかは知らないが、不安しか無い。
とはいえ、いつまでも待たせるわけにもいかない。
僕は、家の外に出た。
「・・・こっちだ。」
辺りを見回すと、杉浦が立っていた。
暗闇の中にいると、更に不気味さが増している。
なぜ杉浦が来たのかは分からないが、気まずい。
「・・・おっ、驚いたよ。
こんな時間に来るなんて、初めてじゃない?」
落ち着かない僕は、とりあえず杉浦に話し掛けた。
しかし、杉浦は僕の心情を見抜いていたのだ。
「・・・見え透いた演技だな。
まぁ、いい。これを持ってきただけだ。」
「えっ・・・これは?」
杉浦が手に持っていた物は、ディスクだった。
ディスクといえば、幸子が伊藤に犯された映像を思い出してしまう。
確か、僕が持っていたディスクから杉浦もコピーしたはずだ。
でも、どうやらこれは違う様だ。
「観れば分かる。じゃあな。」
杉浦は、去っていった。
僕も家の中に入ると、自分の部屋へ閉じこもった。
僕の手には、杉浦から手渡されたケースに入ったディスクがある。
恐らくディスクの内容は、僕が知りたがっているものに違いない。
そう思った途端、急に心臓の鼓動が激しく鳴り出した。
観る事への恐怖心、それだけではない事も分かっている。
だが、それ以上は考えない様にした。
とにかく、また家族が寝静まる深夜まで待たなければ・・・。
時刻は、日付が変わる0時を過ぎた。
やはり地獄の様に長い時間だったが、もう家族は寝ているだろう。
そろそろ大丈夫だ。
内容が予想を裏切るものなら、それでもいい・・・。
僕は、以前の様に暗闇のままテレビにイヤホンを差し込んだ。
そして、ディスクをセッティングすると画面が切り替わった。
僕の異常な緊張感に呼応する様に、映像は流れ始める。
最初に映し出されたのは、階段だった。
見覚えのある光景、ここは僕達が3年間通った高校の校舎内だ。
映像は、階段を上っている様だ。
僅かに、荒い鼻息が漏れている。
撮影者は、恐らく杉浦で間違いないだろう。
しかし、気になるのは撮影場所がB棟だという事だ。
僕達の高校はA棟、B棟で分けられている。
A棟には学年教室や職員室、B棟には調理室や美術室などの多目的な教室。
つまり、杉浦が撮影しているのはあまり人気が無いB棟というわけだ。
もちろん普段ならB棟でも授業を行なっているが、この撮影時には誰も居ない事が確認出来た。
何故なら、微かに国家を斉唱する声が聞こえたからだ。
国歌斉唱は、卒業式の初めに行なっていた。
しかも卒業式は全校生徒、全教師が参加している。
全員、体育館に集まっているのだからB棟に誰も居るはずがないのだ。
杉浦がそんな場所に居る理由は、やはり1つしか無いだろう。
映像は、どんどん階段を上っていく。
誰も居ないせいか、静けさに包まれた中で足音だけが響いている。
まだ午前中の晴天の空だというのに、不気味な雰囲気が映像からも伝わってきた。
杉浦は、遂に最上階の3階までやってきた。
B棟の3階に、特別なものは無いはずだが・・・。
だが、杉浦は迷わず足を進めた。
廊下を進み続けると、とうとう壁に突き当たった。
すると、カメラは上を向いたではないか。
そこには、音楽室と書かれた札が掛けられていた。
そう、B棟3階の突き当たりにある部屋は音楽室だ。
どうやら、目的地はここらしい。
だとすれば、この中に・・・。
画面が、上下にゆっくりと動いた。
恐らく、深呼吸をしているのだろう。
撮影者の緊張感も、伝わってくる。
そして、ドアノブを掴むと勢いよく開けた。
景色は、見慣れた音楽室のままだ。
でも誰も居るはずの無い部屋の中央に1人、佇む者が居た。
もちろん、幸子だ。
※元投稿はこちら >>