【60】
寒い冬も終わり、最近ようやく暖かい風が吹く季節になった。
ほんの1ヶ月ほど前まで防寒具を羽織る者達も多くいたが、今では身軽に外を出歩いている。
3月、春がやってきた。
やっぱり、暖かい季節を迎えると心も弾む様だ。
最近の僕は、まさにそんな充実した日々を送っていた。
しかし、それは春を迎えただけが理由ではない。
あれから、もう半年が経とうとしている。
この半年はあっという間に過ぎ去ったが、一生忘れられない出来事だった。
そして、きっと僕以上にそれを感じているのは、幸子に違いない。
およそ半年前、幸子は近所に棲む淫獣、伊藤に犯されたのだ。
徹底的に、完膚無きまでに犯され尽くしたといっても過言ではない。
幸子の下着を盗んだ僕のちょっとした出来心が引き金になり、幸子は1ヶ月もの間毎日の様に伊藤に犯され続けたのだ。
脅迫されていた僕は止める事も出来ず、伊藤の淫醜行為を見過ごすしかなかった。
だが、そんな状況を救ったのが僕の同級生でもある杉浦だった。
全てを知った杉浦が、伊藤を逆に脅迫したのだ。
僕も幸子も外部には絶対に漏らせない事実だったが、杉浦はそれを逆手に取ったというわけだ。
杉浦の脅迫が効き、伊藤は幸子だけではなく僕にも接触してこなくなった。
晶から聞いた話でも、幸子はしばらく元気が無かったが今では表情も明るくなったと言っていた。
もっとも、晶や由英は体調不良が原因だと思っている様だが・・・。
とはいえ、完全に安心するわけにもいかない。
伊藤の事だから、また幸子を犯す機会を窺っているはずだ。
幸子が時折見せる不安な表情も、まだ伊藤を警戒しているからだろう。
しかし、なんといっても意外だったのは杉浦だった。
幸子に向ける淫欲度は、伊藤に引けを取らない程だと思っていたからだ。
もちろん覗き行為などの異常な行動が物語るように、幸子に淫らな感情を抱いている事は本人からも聞いている。
僕と同じで、妄想で幸子が犯される姿に興奮しながら自慰行為に耽る。
杉浦は、それだけで満足だと僕に言っていた。
でも、僕が感じる杉浦の淫悪な雰囲気はそれ以上のものだと確信していた。
なのに、杉浦は以前と変わらず幸子の目の前には現れていない様だ。
それどころか、杉浦はあれ以来僕に幸子の話すらしなくなった。
恐らく、覗き行為や幸子が犯された映像に酔いしれてはいるのだろうが、幸子の事を語ろうとはしなかった。
僕も無闇に幸子の話をするわけにもいかないので、幸子の話題は避けていた。
やはり、見た目で判断してはいけないという事だろうか。
正直、意外というよりも拍子抜けというのが本音ではあるが・・・。
だが、とにもかくにも僕と幸子は以前の様な何気無い日常を送っていた。
そして、明日はとうとう卒業式だ。
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