【59】
本当に杉浦の解決策が上手くいけば、僕と幸子の日常は平穏を取り戻すだろう。
だが伊藤が幸子を解放しても、杉浦が黙っているとは思えない。
伊藤だけでなく、杉浦も幸子に淫悪な欲望を抱く淫獣なのだ。
幸子を独占したいが為に、伊藤を脅迫するつもりなのではという疑いが、僕が懸念している事だった。
僕は、思い切って杉浦に問いただした。
「あの、勘違いだったら悪いんだけど・・・本当に、僕とおばさんを助ける為なんだよね?」
「・・・まさか、今度は俺が幸子を犯すつもりなんじゃないかって思ってるのか?
バカ言うな、俺もお前と同じだよ。
幸子は確かにいい女だけど、妄想だけで十分だ。
実際に犯すなんて、俺には無理。
ちゃんと、伊藤を黙らせてやる。
お前も幸子も、俺が救ってやるから安心しろ。」
・・・僕は、杉浦の事を誤解していたのかもしれない。
人を見た目で判断してはいけない、正にその通りだ。
この状況で、こんなに頼りになる人物は他にはいない。
「・・・ありがとう。」
杉浦は、僕の感謝の言葉を聞いて帰った。
翌日、学校で杉浦が声を掛けてきた。
昨晩、伊藤の家に行って全て話したらしい。
「伊藤も、かなり食い下がってきたけどな。
大丈夫だ、本気で警察に通報すると思って焦ってたよ。
もう何もしてこないだろうけど、もしまた何かあったら言えよな。」
杉浦の言葉を聞き、僕はホッと胸を撫で下ろした。
これで、全て解決したんだ。
もう、僕も幸子も苦しむ心配はない。
普段通りの日常が、こんなに幸せだとは思わなかった。
今後は、幸子に対して取り返しのつかない行為をするのは止めよう。
もちろん、妄想では今まで通り幸子にお世話になるだろうが・・・。
それから、数ヶ月が経った。
真冬に突入し、寒気に襲われる日々に憂鬱な気分になる。
しかし、ほんの数ヶ月前の憂鬱さとは明らかに違う。
あれから、幸子の表情が変わったのだ。
伊藤に犯されていた頃の暗い表情ではなく、以前と同じ様な勝ち気で気が強そうな表情だ。
それだけで、伊藤が幸子に関わらなくなったというのが分かった。
伊藤は、僕にも何もしてこない。
幸子の家の斜向かいに住んでいるのだから、たまに遊びに行った時には伊藤と顔を合わせる事もあった。
でも、話しかける事すらしない。
杉浦の脅迫が、相当効いたというわけだ。
なにはともあれ、僕と幸子は元の生活に戻れた。
杉浦との関係性も、少しだけ変わった。
以前よりも、杉浦と会話を交わす回数が増えたのだ。
全ては杉浦のおかげなのだから、当然の対応だろう・・・。
高校3年生の冬、卒業まで残り僅か。
どうやら、清々しい気持ちで卒業出来そうだ。
僕は、寒さの憂鬱よりも平穏な日常の素晴らしさを感じずにはいられなかった。
幸子も、きっとそう思っているに違いない。
だが、そんな日々が長く続かない事を、この時はまだ知らなかった・・・。
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