【54】
引き出しからディスクが見つからない瞬間、正直杉浦の事が頭をよぎった。
でも、杉浦に盗むのは困難だと判断した。
何故なら、僕がトイレに行ってから部屋に戻るまでの時間はせいぜい2、3分だ。
その短時間に、わざわざ引き出しを開けてディスクを盗むという行動はあまりにも用意周到すぎる。
初めから、そこにディスクを隠していると分かっていなければ出来ない行動だ。
そもそも、あのディスクが何なのか杉浦には分からないのだ。
僕の部屋に戻るまでの2、3分で再生して確認する余裕もなかった。
ディスクの内容を知らないなら、杉浦に盗む動機は無い。
そこで、杉浦の可能性は消したつもりだった。
しかし、この部屋に無いという事は杉浦が盗んだとしか考えられない。
それに確かに杉浦に盗む動機は無いが、それはディスクの内容を知らなければという話だ。
つまり、あのディスクにどんな映像が収められているのか知っているとすれば、杉浦が盗むのは必然なのだ・・・。
とはいえ、今はそんな事を考えている場合ではない。
僕は、もう一度部屋の中を隈無く探した。
だが、やはり何処にも見つからなかった。
天国から地獄の様な、最悪の休日だ。
結局、ディスクは見つからず翌日を迎えた。
学校へ行っても、授業どころではない。
ディスクが見つからない以上、誰の手に渡るか分からないのだ。
もしも、晶にでも見つかったとしたら・・・。
晶は、何も知らずに僕に話しかけてくる。
罪悪感と、やはりディスクを受け取らなければよかったという後悔が襲ってきた。
念の為、杉浦に問い詰めようかとも思った。
でも盗んでいなかったとしたら、逆に問い詰められてしまう。
何の事だ、ディスクの内容は何だ、と執拗に迫ってくるに違いない。
あの映像を見ていないなら、杉浦には知らせない方がいい・・・。
その後、何の進展も無いまま帰宅時間を迎えた。
僕は帰ってもう一度部屋を調べようと、急いで家へ足を進めた。
すると、僕の目の前に1人の人物が立ちはだかった。
その人物は、杉浦だ。
この男が目の前に現れた、僕は嫌な予感がしてならなかった。
そして、それは間違っていなかった。
「・・・これを探してんだろ?」
「あっ!!」
杉浦の手に持っていたのは、僕が昨日一日中探していたディスクケースだった。
そう、幸子が犯された映像が収められているディスクだ。
やはり、杉浦が盗んでいたのだ。
「・・・何で?」
「まぁ待て、ここだと他の奴等に話を聞かれる。
お前の部屋に行こうぜ。」
杉浦は、僕を先導する様に歩き出した。
僕は、杉浦を警戒しながらも後を付いていくしかなかった。
あのディスクを取り戻すには、今はそれしかない。
学校と僕の家は、徒歩で10分程の距離なのでそれほど遠くはない。
その間、僕は杉浦には何も語らず、杉浦も僕には何も語らなかった。
家に着き、杉浦はズカズカと僕の部屋へ入っていく。
僕も入ると、僅かに沈黙の間が流れた。
どう切り出そうか、僕は悩んだ。
すると杉浦が先に沈黙を破り、話しはじめた。
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