【53】
僕が目を覚ました時には、正午を過ぎていた。
精魂尽き果てるとは、こんな状態をいうのかもしれない。
でも、やはりあの光景を思い出してしまうと股間の疼きを抑えられなかった。
もう少し休んだら、また淫欲を吐き出そう。
今日は日曜日だが、家族は出かけて居ないはずだ。
とりあえず、僕はトイレに行こうと部屋を出た。
すると、思わぬ来客が訪ねてきた。
「お邪魔しまーす。」
今日は、誰とも会う予定は無いはずだが・・・。
僕は、玄関へ向かった。
「あっ!」
思わず驚いて、声を上げてしまった。
そこにいたのが、杉浦だったからだ。
一体、何故来たのだろう。
たまに遊びに来ることはあったが、今日は遊ぶ約束をしていない。
とはいえ、無神経な杉浦なら勝手に家に来ても不自然ではなかった。
それぐらい、この男はわがままで面倒な厄介者なのだ。
「どっ、どうしたの?」
「どうしたって、遊びに来ただけなんだけど。悪いか?」
「いや、悪くはないけど・・・今日、遊ぶ約束してたっけ?」
「約束しないと来ちゃ駄目なのか?」
「そっ、そんな事は言ってないよ。どうぞ、上がって。」
少しでも意見を言うと、喧嘩腰になるのも杉浦の嫌な所だ。
「あっ、僕はトイレに行くから・・・。」
「じゃあ、部屋に言ってるぜ。」
杉浦は、急ぐように僕の部屋へ向かった。
幸子が犯された映像のディスクは、机の引き出しの中に隠している。
万が一見つかったとしても、何のディスクかは分からないから大丈夫だろう。
念のため急いでトイレを済ませた僕は、部屋に戻った。
すると、杉浦が部屋から出てきたではないか。
「なっ、なに?」
「あぁ悪い、やっぱり風邪っぽいから帰るわ。」
いきなり来たかと思ったら、これだ。
全く、振り回される身にもなってほしいものだ。
「そっ、そう。残念だけど、お大事に。」
杉浦は僕には別れも告げず、足早に去った。
しかし、具合が悪そうには見えなかった。
どちらかといえば、目が血走っていた様に見えたが・・・。
まぁ、早く帰ったならそれでいい。
僕は、部屋に戻るなり机の引き出しを開けた。
第2ラウンドの始まりだ。
だが、異変に気付いたのはすぐだった。
(あれ、ここの引き出しに入れたはず・・・)
隠していたディスクが、見つからないのだ。
まさかと思い全ての引き出しを確認したが、どこにも無い。
まずい、あのディスクの所在が確認できないのは非常に危険な事態だ。
もしもあの映像が外に出回れば、幸子の生活は破綻してしまう。
好色の目で見られ、あらぬ噂を立てられるに違いない。
仕舞いには、この町を出て行くか家庭崩壊するか、幸子に待っているのは今以上の地獄だ。
更に、地獄なのは僕も同じだ。
あの映像は、どう見ても伊藤が無理やり幸子を犯しているから逮捕される。
伊藤が警察に捕まれば、撮影者も追及されるだろう。
そうなれば、伊藤は簡単に僕のことを喋る。
何としても見つけないと、僕の人生も崩壊してしまうのだ。
でも、何処を探してもディスクは見つからなかった。
これだけ探しても見つからないという事は、もうこの部屋には無いと考えるのが自然だろう。
そこで、僕はある疑いを抱かずにはいられなかった。
この状況で紛失した原因として考えられるのは、やはり杉浦しかいない。
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