【51】
その杉浦が、何故ここにいるのだろう。
ここから自宅までは、大分離れている。
それに、こんな暗闇に出歩いているのは不自然だ。
だが、今の僕に杉浦の行動を勘繰る余裕はなかった。
伊藤の家から出てきたのを、目撃されたに違いないからだ。
そして、その心配は的中してしまった。
「洋太・・・今、この家から出てきたよな?」
まずい事になってしまった。
杉浦から晶に、伊藤の家に出入りしている事を告げ口されれば、幸子の耳にも入るかもしれない。
僕は、頭をフル回転させて考えた。
「・・・あぁ、うん。
・・・あっ、家の前に落とし物があったから。
多分、ここの家だと思って・・・。」
「・・・へぇ。」
苦し紛れだったが、何とか誤魔化せた様だ。
「でも、この家の男ってあの気味悪い奴だろ?
あんまり関わらない方がいいぜ。」
「うっ、うん。」
正直どちらも変わらないと思うが、僕はその言葉を呑み込んだ。
僕は、伊藤の家に出入りしていた事から離そうと、話題を変えた。
「そっ、そういえば杉浦はこんな時間に出歩いてどうしたの?」
「えっ、俺は散歩だよ。よくこの辺まで来るんだ。」
「ふっ、ふーん。そうなんだ。」
こんな時間にこの辺りまで散歩なんて、やっぱり異常性を感じてしまう。
しかし、これ以上長居は出来ない。
早くここから離れないと、幸子にでも見られたら大変だ。
それに、早く帰ってこの映像を確認しなければ・・・。
僕は、杉浦を避ける様にその場を去ろうとした。
ところが、この男は一筋縄ではいかなかった。
「ん、その手に持ってる物は何だ?・・・DVD?」
「あっ、これは・・・あの・・・あっ、晶から借りた映画のやつだよ。」
「晶から?」
「うっ、うん。だから、早く帰って見ないと・・・。
そういうわけで、それじゃあまた。」
杉浦はまだ僕に何かを言いたそうだったが、僕は振り切って走り去った。
とんだ邪魔が入ってしまったが、もう大丈夫だ。
早く、あの光景をもう一度目に焼き付けなければ・・・。
僕は、息を切らして走って家まで戻った。
でも、すぐに映像を確認するわけにはいかない事に気付いた。
もしかしたら、途中で家族に呼び掛けられるかもしれないからだ。
あの映像は、集中して観たい。
もちろん早く観たいが、家族が寝静まるまで耐えた方がいいと判断したのだ。
早く深夜になれ、たった数時間がとてつもなく長く感じる。
だが、待ち遠しければ待ち遠しい程、その瞬間がやってきた感情は計り知れないだろう。
そして、眠れぬ夜がやってきた。
深夜、家族が寝静まってから1時間以上が過ぎた。
もう、十分だろう。
これ以上は、僕も淫欲を抑えきれない。
自分の部屋の電気は消し、テレビにイヤホンを差し込んだ。
残るは、伊藤から受け取ったディスクをセッティングするだけ。
心臓は激しく鼓動し、体が震えだした。
僕の体も、あの光景を欲しているのだ。
深呼吸し、息を整えるとディスクをセッティングしてイヤホンを耳につけた。
すると、テレビの画面が切り替わった。
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