【46】
あの衝撃的な出来事から、数週間が経った。
10月にもなり、季節は秋の寒空に変わってしまった。
夏はどちらかといえば、活気に満ちた季節といえるかもしれない。
だが、秋から冬にかけて寒くなる季節は気温だけでなく、空気すら何故か淀んだ雰囲気にさせてしまう。
まるで、今の僕の心情に呼応しているかの様だ。
いや、僕の苦しみなんて大したものじゃない。
僕以上に、耐え難い日常を過ごしている者がいるのだから・・・。
そう、町内の運動会が行われたあの日から地獄は始まった。
あの日以来、幸子は毎日の様に伊藤に犯され続けているのだ。
それ以降、僕は定期的に伊藤から夜に呼び出されていた。
理由は、単に幸子を犯した自慢話を聞かせたいだけだ。
最初に呼び出されたのは、幸子を犯した翌日の夜だった。
息子の晶から、幸子が普段通りの生活を送っている事は、学校で聞いて確認出来た。
しかし僕の予想通り、伊藤は朝から幸子を犯し続けたのだ。
夫である由英と晶が家を出るや否や、幸子の家へ無遠慮に入っていくと幸子は居間で掃除をしていたらしい。
そこで、抵抗する幸子に伊藤はあるものを見せた。
僕が撮影した、幸子が犯された証拠となる映像だ。
家族や周囲にも見せる、そんな事を言われれば逆らえるはずがない。
伊藤は、大人しくなった幸子を由英と晶の帰宅が迫る時間まで犯し続けた様だ。
幸子には、一部始終を盗撮していた共犯者がいる事も告げたらしい。
もちろん、それが僕だという事は言っていない様だが・・・。
「お前を狙っている男は、他にもいるって事だ。」
本当か嘘かは分からないが、幸子にはそう伝えてそれ以上は共犯者に関して何も言わなかったらしい。
とりあえず、それが本当なら僕の事は知られないから一安心だ。
だが、幸子にとっては辛い地獄の日々の始まりなのだ。
やっぱり、罪悪感が消える事は無い・・・。
そんな事情もあり、僕はそれ以来幸子とは会わない様にしていた。
晶が遊びに誘っても、幸子の家には行かなかった。
幸子に、どんな顔をして会えというのだ。
僕は、現実逃避でもするかの様に幸子を避けていた。
とはいえ、あれだけ刺激的な光景は忘れられるはずがない。
現実では幸子を避けていても、妄想では幸子が犯された姿を思い出して扱かずにはいられなかった。
でも、これでいいのではとも思った。
妄想で幸子を思い浮かべて扱いたとしても、このまま現実で幸子に会わなければ自分の罪悪感も少しは軽くなると思ったからだ。
この期に及んで、僕はまだ悪足掻きをしていたのだ。
ところが、そんな時だった。
幸子が夕飯に招いていると、晶から知らされたのだ。
もしや、伊藤が共犯者は僕だとバラしたのではないか。
僕に、直接問い詰める気なのでは・・・。
そんな不安が一瞬よぎったが、どうやらその心配は無用だった。
晶の話では、最近遊びに来ていない僕を気にかけているというのだ。
「お前も息子みたいに思ってるんじゃないか?
いい迷惑だよな。」
自己嫌悪、そんな言葉だけでは語れない。
僕は、一生罪を背負いながら生きていかなければいけないだろう。
今更、犯した過ちは元通りにはならないし僕が共犯者だと告げる事も出来ないが、幸子を少しでも伊藤から解放させなければ・・・。
そして、僕は久しぶりに幸子の家へ向かった。
※元投稿はこちら >>