【45】
翌朝、僕は学校で晶に話し掛けた。
いつまでも避けるわけにはいかないし、何より幸子の様子が気になったからだ。
「全く、意味分かんねーよ。
先に行ってると思ったら、お前が居ないんだからさぁ。」
「ごっ、ごめん。行こうと思ったら、急に具合が悪くなって・・・。
ちょっと風邪気味みたい。」
「何だ、お前も風邪かよ?」
「えっ?」
「母さんもさぁ、風邪ひいたって寝込んでたんだよ。」
「えっ!?いつ!?」
「昨日だよ。俺が帰った時には、寝室で寝てたんだ。」
恐らく風邪というのは嘘だろう、僕はそう直感した。
「父さんの話だと、帰ってきたら母さんはシャワー浴びてたんだって。
で、その後いきなり風邪ひいたみたいだから寝るって寝室に行っちゃったんだってさ。」
「へっ、へぇ。」
伊藤に汚された身体を洗い流していたのだろう、それも容易に想像がつく。
「しかもさぁ、面接に行かなかったんだって。
急に具合が悪くなったからって。
それなのにシャワー浴びてるって、全く訳分かんねーよなぁ。」
「そっ、そうなんだ。」
「あっ、訳分かんねーっていえば他にもあったんだよ。」
「なっ、なに?」
「何かさぁ、帰ってきたら台所が変な臭いしてたんだよ。
ちょっと説明するの難しいんだけど、いい臭いじゃなかったのは確かだな。
・・・でも、心当たりはあるんだよ。」
「えっ、何!?」
「昨日家を出る前にさぁ、思わぬ来客が来てたんだ。
ほら、俺の家の近くに伊藤って不気味な奴が住んでるだろ?
あいつが来てて、台所で母さんと話してたんだよ。
母さん、あいつの事すげぇ嫌ってたのに変だなぁって思いながら家を出たんだよなぁ。
まぁ、母さんも嫌そうにしてたけど。
だから、あいつの臭いだと思うんだ。
あいつの家の前を通ると、いつも変な臭いするからさぁ。」
幸子は、由英が帰ってくる前には掃除し終えた様だ。
だが、さすがに臭いまでは隠滅出来なかったのだろう。
あれだけの汚濁液が飛び散ったのだから、悪臭がこびりついていても仕方がない。
更にもう1つだけ、幸子は証拠隠滅出来なかった物があった。
「おかげで夕飯も不味く感じたし、とんだ災難続きだったよ。仕舞いには、台所で思いっきり滑って転んだんだぜ?」
「なっ、何で?」
「何かに上がったと思ったらさぁ、そのまま滑ったんだよ。
で、何かと思って見てみたら・・・ボタンだったんだ。」
「ボッ、ボタン?」
「そう、透明なやつ。あれ、多分Yシャツのボタンだと思うんだよな。
台所の床に、そんな物が落ちてるなんて思わないだろ?
だから滑って転んだってわけ。」
「そっ、そっか。大変だったね。」
そのYシャツのボタンは、幸子のもので間違いないだろう。
伊藤が幸子のYシャツを脱がそうとした時に引きちぎって弾け飛んだ1つを、幸子が見落としてしまったに違いない。
「・・・母さんのじゃないかなぁ。」
「えっ?」
「ボタンだよ。Yシャツのボタンだとしたら、昨日は母さんしかYシャツ着てないし。」
僕は、思わず動揺した。
晶は、伊藤が居た事を知っているのだ。
色々と勘繰れば、最悪の事実に辿り着いてしまうかもしれない。
母親が犯されていたという事実を知れば、牧元家は崩壊する可能性もあるのだ。
だが、僕のそんな心配は余計なものだった。
「だから痩せろって言ってるんだよ。
きっとサイズが合わなくなったから、ボタンが飛んじゃったんだぜ。」
「まっ、まさか。ハハハッ。」
息子には、やはり分からないのだろう。
自分の母親が、どれだけ男達の淫欲を掻き立てる魅惑的な女かという事に・・・。
しかし、この様子だと晶に気付かれる心配は無さそうだ。
問題は、幸子の状態だ。
「そっ、そういえばおばさん今朝も具合悪そうだったの?」
「いや、今朝は起きて朝食も作ってたよ。
まだ本調子ってわけじゃないけど、俺が家を出る時にはいつも通り掃除もしてたな。」
やはり、幸子の気丈さは人並み以上だ。
一晩で気持ちを切り替え、家族に心配させまいと普段通りの生活を装うつもりなのだろう。
絶対に知られたくない、伊藤という卑劣な男に屈したくないという強い意思が感じられる。
幸子であれば、家族に疑われずに過ごせるのではないかと思わせる強さがあった。
だが、本当の地獄はこれからなのだ。
恐らく、伊藤は既に幸子の所へ向かっているだろう。
そして、淫欲を抑えきれずに幸子を犯しているに違いない。
獣の様に、幸子の身体をむさぼっているに違いない。
幸子は、これからも淫獣の餌食になり続ける運命なのだ・・・。
完
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