【44】
自分だけが幸子を独占したいのだと思っていたから、幸子を犯した映像をコピーして僕に渡すなど考えてもいなかった。
だが、それが何を意味しているのか僕には分かった。
要するに伊藤が言った通り、僕は共犯者なのだ。
幸子を犯した伊藤に加担し、今後も幸子を犯し続ける為の脅迫材料になる映像を撮影していた罪深き共犯者だ。
だから、これからも僕は逆らえずに利用され続けなければいけない。
つまり、餌を与えられたわけだ。
幸子に卑猥な感情を持つ者なら、幸子が犯された映像は喉から手が出るほど欲しい獲物なのだから。
本当であれば、そんな映像なんていらないと断ってやりたい。
しかし、断ったところで僕が伊藤に逆らう事は許されない。
それにあの淫劇をいつでも見れるというのは、やはり無視出来なかった。
後悔しながらも、僕は幸子が犯されるのを望んでいた人間なのだ。
結局、僕は伊藤の餌を受け取る事にした。
そして、時刻は3時半を迎えようとしていた。
まだ由英や近所の車は来ていない様だが、もうじき帰ってくるだろう。
僕も、そろそろ帰らなければいけない。
伊藤の家に出入りしている姿を目撃されるのは、回避したいからだ。
近所の嫌われ者と親しくしている等と勘違いされるのは、御免だ。
ましてや、幸子に僕が共犯者だという事が知れたら全て終わりなのだ。
僕が帰ろうとすると、伊藤は満面に淫醜の笑みを浮かべて言った。
「明日から忙しくなるなぁ。ゲヘヘヘッ。」
恐怖を感じながらも、僕は伊藤の家を出た。
明日から、伊藤は毎日幸子を犯すだろう。
僕が撮影した映像を脅迫材料に、逆らえない幸子を徹底的に淫欲の限りを尽くすはずだ。
僕が伊藤の家を出ると、すぐに近隣者の車が続々と帰ってきた。
由英も、今に戻ってくるだろう。
幸子は、犯された現場を片付け終えただろうか。
とはいえ、僕には何も出来ない。
僕は幸子が証拠隠滅した事を祈りつつ、家路に着いた。
そこで、僕は1つ忘れていた事に気付いた。
晶に連絡するのを、忘れていたのだ。
友達の家に先に行くというメールを送ったっきり、連絡していなかった。
もちろん、今から行く気は無い。
いや、それよりも晶に会ってどんな顔をしていいのか分からないからだ。
幸子の息子が目の前にいて、今の僕には平常心でいられる自信が無かった。
だから、今日は会うわけにはいかない。
すると、既に晶からメールが届いていた事に今気付いた。
なぜ来ていない、早く来い、そんな内容のメールだった。
丁度、幸子が犯されていた真っ最中の時間だ。
念の為、着信音を消していたから気付かなかった様だ。
僕は、晶にも申し訳ない気持ちを抱きながらメールを返した。
風邪をひいたみたいだから、今日は行けない。
晶にそのメールだけを送ると、携帯電話の電源を消して僕は布団の中に潜り込んだ。
どちらかといえば、やはり憂鬱な感情の方が強い。
今日の出来事が夢ならいいのにと、僕は知らぬ間に眠りについていた。
※元投稿はこちら >>