【38】
あの瞬間、伊藤は咄嗟の判断をした。
由英が来たと思い、何とか逃げ出そうとした伊藤だったが、2人の中年女性の声を聞いて思い留まった。
まだ可能性はあると、踏んだ様だ。
そこからは、一瞬の出来事だった。
床に脱ぎ散らかした自身と幸子の衣類を、急いで玄関から見えない位置に隠したのだ。
そして、幸子も玄関から見えない位置へと強引に引き摺る様に移動させた。
更に幸子を移動させた後、伊藤は幸子の口を手で塞ぎ、耳元で何かを囁いた。
恐らく、脅したのだろう。
こんな状況を誰かに見られたら皆に知れ渡るぞ、そんな所だと思う。
案の定、幸子は伊藤を睨み付けながらも大人しく従った様だ。
2人が玄関に入ってきたのは、幸子を移動させた瞬間だった。
間一髪で隠れ、気付かれずに済んだ。
本当なら台所の扉を閉じれば良かったのかもしれないが、さすがにそこまで考える余裕は無かったのだろう。
とはいえ、もしかしたら急いで扉を閉じた時に音が聞こえてしまっていたかもしれない。
どちらにしても、このまま沈黙を保って居留守を装えば諦めて帰るはずだ。
伊藤はもちろん、幸子も不本意だがそう考えたらしい。
本当は、助けを求めたいだろう。
助かりたいなら、今すぐ2人に声を掛けるしかない。
だが、その代償は大きすぎる。
噂は瞬く間に広がり、この先の人生は後ろ指をさされ続けるだろう。
幸子にしてみれば、やはり耐えられるものではない。
更に家族にも知られ、もしかしたら家庭崩壊の可能性だってある。
ここで助かっても、待っているのは地獄しか無いというわけだ。
もちろん、まだ諦めてはいないはずだ。
幸子の強気な一面が失われていないのを見る限り、まだ希望を捨てていないのが分かる。
しかし、毛嫌いするこの2人にだけは知られたくない。
現在の幸子の心情は、こんな所だろう。
伊藤と幸子が今いる位置は、玄関からは死角になる場所だった。
台所を見渡せる僕には4人の様子がはっきりと見えるが、玄関の2人には伊藤と幸子の存在は全く分からないだろう。
玄関の2人は、何度も呼び掛けている。
そして伊藤と幸子は床に座った状態で、じっとしていた。
幸子が前、伊藤が後ろという位置関係だ。
幸子は両手を後ろで拘束されたまま両膝を横に折って座り、玄関の方向へ神経を集中させていた。
伊藤は幸子に密着する様に真後ろに陣取り、床に膝を突いた状態だ。
早く帰れ、伊藤の表情がそう言っている。
機は熟したと思った矢先に、水をさされたのだ。
抑制出来ずに暴れ狂っている伊藤の剛棒は、密着している為に幸子の肉尻に食い込んでいた。
それに気付いた伊藤が、淫攻を思いつかないわけがない。
伊藤の目付きはみるみるうちに邪淫なものに変わり、幸子に襲いかかった。
後ろから手を回し、散々弄んだ幸子の豊乳を再び鷲掴みしたのだ。
まさか、この状況で淫攻を仕掛けてくるとは予想していなかった幸子は、動揺を隠せず驚いた。
後ろを振り返り、淫醜に満ちた伊藤へ哀願する様な表情で拒絶しているが、伊藤がそれに応じるはずがない。
声を出せないのをいい事に、豊乳を揉みしだいて幸子の悩乱する反応を楽しんでいる。
そして、玄関にいる2人の会話で幸子は更に煩悶する事になった。
「やっぱり、ご主人の言った通りだったのかしらねぇ。」
「仕事の面接に行くって話?」
「えぇ。嘘かと思ったけどさすがにこれだけ叫んでも出てこないって事は、本当に面接に行ってるのかも。」
「じゃあ、鍵はかけ忘れたって事?不用心ねぇ。
泥棒でも入ったらどうするつもりなのかしら。」
「そうよねぇ。これで本当に泥棒に入られたら騒ぎ立てるのよ、きっと。」
「全く、ご主人はちゃんと挨拶するし愛想も良いのに。
嫁があれじゃあねぇ。」
「そういえばご主人、凄い庇ってなかった?」
「奥さんの事でしょ?仕事の面接でどうしても来られなかった、本人も申し訳無さそうだったって言ってたわね。」
「あの女がそんな事思うわけ無いじゃない!」
「当然でしょ!ご主人が機転を利かせて言っただけよ。
あんな女でも愛してくれる人がいるんだから、世の中おかしいわよねぇ。」
幸子が居ないと思い、2人は好き放題言いまくった。
だが、幸子は全て聞いている。
幸子の表情は、悲壮感で溢れていた。
2人の陰口は、もちろん許せないだろう。
しかし、何よりも夫である由英の優しさが今の幸子には心憂い状況に違いない。
由英も、まさか妻がこんな状況に遭っているとは思いもしないだろう。
そしてそんな会話を聞いているのは、幸子だけではない。
僕もだが、淫獣である伊藤もなのだ。
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