【26】
この慌ただしい状況で、幸子も下着を干している事を忘れていたのだろう。
伊藤も幸子の下着を見るのは初めてではないが、この状況で幸子の下着を発見した事に異常な興奮を感じている様だ。
そして、伊藤の様子がおかしい事に幸子も気付いた。
伊藤が釘付けになっている視線の先に目をやり、幸子もすぐに理解したらしい。
伊藤という1番嫌悪する男に、自身の下着を見られたのは恥辱的な感覚なのだろう。
幸子は、急いでスライドドアを閉じた。
更にそのままの勢いで伊藤を睨み付けると、怒りにまかせて怒声を上げた。
「もう帰って!!」
恐らく、怒りと同時に身の危険も感じているのだろう。
伊藤がいつも以上に怪しい雰囲気を醸し出している事に、幸子は気付いている。
だが、もう伊藤を止める事は誰にも出来ない。
伊藤は、幸子の言葉を無視して語りはじめた。
「いけませんなぁ。奥さんは何も分かっていない様だ。
あんな無防備に下着を干してると、また盗まれますぞ。
獣は、どこであなたを狙っているか分からないんですからな。」
警戒する幸子を舐め回す様に視姦しながら、伊藤は更に続ける。
「いや、しかし・・・干してた下着といい、盗まれた下着といい・・・まぁ精液まみれで茶色なのか白なのか分からん状態ですが、奥さんは御自分の魅力だけはよく分かってる様だ。
奥さんがあんな下着を身に付けてる姿を想像すると・・・たまりませんなぁ。」
「なっ!?ふっ、ふざけるのもいい加減にして!!」
「でも、その中はそれ以上なんでしょうなぁ。
奥さんの・・・いや、幸子の裸体を思い浮かべただけで疼くんですよ。
どんないやらしい身体なんだろうなぁ。」
とうとう、伊藤は幸子に本性を晒け出した。
もっと幸子の反応を楽しむ予定だったはずだが、伊藤の興奮も限界が近いという事だろう。
しかし、幸子は伊藤の発言を許すはずがなかった。
最初から伊藤を毛嫌いしていたし警戒もしていただろうが、こうして直接卑猥な言葉を浴びせられたのは今回が初めてで、聞くに耐えないものに違いない。
それに気が強い幸子の性格を考えると、伊藤の様な男に名前を呼び捨てにされたのも不愉快だろう。
幸子の表情は怒りで満ち溢れ、これまでの比ではない。
こんなに激怒する幸子を、僕は初めて見た。
それほど憎くて、屈辱的という事だろう。
「帰りなさい!!もう顔も見たくないわ!!
・・・いい!?これ以上私の前に現れないで!!
じゃなきゃ警察に下着泥棒だと通報するわよ!!」
幸子の怒声は、外にまで響いた。
もしも普段通り近所に人がいれば、間違いなく聞こえて異変に気付くだろう。
幸子は伊藤の目の前にある紙コップを掴み、シンクへ持っていくと「ドンッ!」と強く置いた。
流し台に置いていたペットボトルの水は、冷蔵庫に戻そうとした。
幸子の歩く足音は「ドンッドンッ」と強く、怒りを抑えられない様だ。
そして、冷蔵庫に水を入れて扉を閉めようとした、その時だった。
遂に、伊藤が動き出したのだ。
(きたっ!!)
僕は、ビデオカメラ越しにこれから起こる惨劇の様な光景を、固唾を呑んで見守るしかなかった。
伊藤は立ち上がり、幸子の元へ向かう。
冷蔵庫の扉を閉めた瞬間、伊藤に背を向けている幸子が異変に気付いた時にはもう遅かった。
「きゃあ!!!」
幸子の悲鳴が、辺りに響いた。
伊藤が、背後から幸子に襲いかかったのだ。
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