【161】
この状況で杉浦に逆らえば、何を仕出かすか分からない。
幸子が杉浦に逆らえない関係性だと知っている野田なら、何かを隠し持っていると警戒するはずだ。
無闇に刃向かってはいけない、杉浦にはそんな危険性が醸し出されていた。
「・・・思い出してくれたみたいですね。
では、行きましょうか。
昨日の楽しかった話は、車の中でじっくり聞かせてもらいますよ。」
どうして杉浦がわざわざ来たのかは知り得ないが、結果的に助かったのは事実だ。
幸子にとっては複雑だろうが、僕と同じ心境に違いない。
しかし、杉浦には牧元家に来る明確な目的があったのだ。
「あっ、そうだ。
おじさん、車に詳しいですよね?
ちょっとエンジンの調子が悪そうなんで、軽く調べてもらっていいですか?」
杉浦は、由英にそう尋ねた。
「えっ、車?
まぁ、軽くでいいなら診てみるけどあんまり期待はしないでくれよ。」
「有り難うございます。
・・・おっと、いけない。
そういえば、昨日忘れ物しちゃったんですよ。
何処に置いたか覚えてないので、探してもいいですよね・・・おばさん?」
「・・・えぇ。」
性奴隷の幸子が、杉浦に楯突く事は許されない。
「じゃあ、町長は外で待っててください。
すぐに行くんで。」
野田と由英は、外へ出ていった。
逆らえない立場なのをいい事に、杉浦は年上の者達に有無を言わせないつもりだ。
すると、今度は僕と目を合わせた杉浦。
「おう、洋太。
昨日は、いい夢が見れただろう?」
どんな意味かは言うまでもないが、あまり過剰に反応すれば幸子に怪しまれると思い、僕は平静を装った。
「おっ、おはよう。」
そんな僕に杉浦は見下した笑みを浮かべながら、その忘れ物とやらを探し始めた。
「え~っと、何処だったかな。」
客間に向かった杉浦を見て、僕は直感的に気付いてしまった。
恐らく、証拠となる隠しカメラを回収しに来たのだ。
それなら、僕は素知らぬふりをしなければならない。
隠しカメラを仕込むのは、異常行為である。
本来なら、幸子が黙ってはいないだろう。
だが、性奴隷の幸子に杉浦の行動は止められない。
もしも僕が隠しカメラを回収する瞬間を目撃すれば、幸子が対応に困るという事だ。
僕は残り僅かな朝食だけに視線を固定し、ゆっくり食べる事にした。
幸子も、台所に残っている。
僕が杉浦の方を振り向かない様に、見張っているのかもしれない。
どうやら、杉浦は客間だけでなく家中を移動している様だ。
そして、台所にもやってきた。
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