【157】
野田の汚濁液の悪臭やおぞましい粘着性は、僕も知っている。
あんな液体が喉を通っていけば、誰でも狼狽えるだろう。
しかも、客間に向かった時には掛けていた黒のエプロンも無かった。
恐らく、野田に剥ぎ取られ豊乳も弄ばれた様だ。
妻のこんな姿を見たら、何事かと疑わざるを得ない。
「おいっ、何かあったのか?」
由英は、心配そうに幸子を問い詰めた。
これを誤魔化すのは、難しい。
張りつめた空気が、家中に流れた。
しかし、こんな状況でも幸子は健気にやり過ごそうとしたのだ。
「あっ、あの・・・ちょっと、熱っぽいだけよ。
・・・・・トイレに行ってくるから、ここはお願いね。」
そう言って、幸子は小走りで台所を出た。
喋り方が籠もっていたので、汚濁液を飲まされたのは確実だ。
「昨日、無理させすぎたかなぁ。
顔色も少し悪そうじゃなかったか、洋太?」
「うっ、う~ん・・・そう、かな。
さっきと、そんなに変わらないと思うけど。」
僕は、由英の疑心を軽減する為にはぐらかした。
「気にしすぎか・・・。
あっ、味噌汁もう温まってたんだ。」
どうにか、由英の気は逸らせた様だ。
だが、幸子は今トイレで苦悶に打ち拉がれているに違いない。
実際に嘔気もあるだろうが、それ以上に耐えられないのは野田に刃向かえないこの状況だろう。
僕も、まさか野田がここまで無尽に幸子を翻弄するとは思わなかった。
やはり、幸子に対しての常軌を逸した執着心がそうさせるのかもしれない。
すると、その傍若無人な淫獣が図々しく台所にやってきた。
そして、更に驚くべき行動に出たのだ。
「・・・奥さんは、何処に行ったのかな?」
「えっ、妻ですか?
妻ならトイレに行きましたけど、どうしました
?」
「・・・・・いや、私もやっぱり朝食をいただこうかなと思ってね。
そうか・・・じゃあ、後で頼もうかな。」
野田の様子がおかしい事に、僕は気付いた。
「大丈夫ですよ。
妻が、もう料理を作ってたので。
向こうで食べますよね?
持っていきますよ。」
「・・・そうだね。
牧元君、悪いがお言葉に甘えるよ。
・・・・・あっ、忘れてた。
まだ、顔を洗ってなかったんだ。
町長が目ヤニなんて付けてたら、いい笑い者だな。
洗面所を借りるよ。」
その言葉で、僕は野田の狙いを察知した。
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