【154】
幸子と野田が、秘密にしている2人だけの出来事。
それを見ていながらも、素知らぬ顔をする僕。
何も知らない由英。
この場の空気が、違和感で包まれている。
だが、確実なのは昨晩の淫劇が公にはならないという事だ。
「あっ、お腹空いてますよね?
朝食、どうですか?」
唯一、野田の本性を知らない由英が尋ねる。
「う~ん・・・有り難いけど、遠慮しておくよ。
今は、あまり食欲が無いんだ。
食欲は、ね。
・・・それよりも、今日の朝刊はあるかな?
立場上、新聞は目を通さないとね。」
「朝刊は、もう来てるよな?」
由英に聞かれ、幸子は仕方無さそうに頷いた。
「じゃあ・・・向こうで読みたいから持ってきてもらえるかな、奥さん。」
「えっ?」
思わず、困惑した声を発する幸子。
野田は、有無を言わせず客間に戻っていった。
これに、嫌な予感がしたのは幸子だけではない。
昨晩の光景を見ていた僕にも、野田がまた良からぬ企みを考えていると推測出来た。
とはいえ、僕も由英も起きてしまったのだから迂闊に淫攻を行うのは難しいはずだ。
単に、幸子の反応を楽しむだけだろう。
「さぁて、俺は先に顔を洗ってくるか。
新聞、頼むな。」
由英は、幸子に託すと洗面所へ向かった。
僅かに、溜め息を吐いた幸子。
恐らく、幸子自身もこの状況ならさすがに大丈夫だと思っているに違いない。
幸子は、台所を出た。
確か、新聞は玄関の下駄箱の上にあったと思う。
洗面所へ行くには玄関の前を通るので、僕は先ほど通りかかった時に見ていた。
台所から廊下に出て、玄関へ進んだ幸子。
そのまま、一旦台所に戻ってくると新聞に挟まっていたチラシをテーブルに置いた。
町内スーパーなどの、特売情報が載っているチラシだ。
幸子が昔からチェックしていたのを、僕は覚えている。
これは、主婦ならではの日常的な行動かもしれない。
きっと、この後買い出しに行くつもりだろう。
そして、幸子は新聞を持って野田が居る客間へと向かった。
少なくとも卑猥な言葉ぐらいは話し掛けるだろうが、その程度だ。
僕は、周りに人が居るこの状況なら野田の行為もたかが知れていると決めつけていた。
いや、幸子もそう結論付けたはずだ。
しかし、僕達は淫獣の恐ろしさを侮っていた。
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