【153】
「でも、驚いたよ。
起きたら、隣に野田さんが寝てたんだからな。
野田さんも、酔い潰れるまで呑んで寝ちゃったのか?」
「・・・えぇ、そうみたいね。」
幸子は、一部始終を隠し通すつもりだ。
「あっ、杉浦君はどうした?
確か、彼と野田さんが最後まで残ってたよな。
それからの記憶が・・・駄目だ、全然覚えてない。」
「かっ、彼なら帰ったわ。
・・・野田さんも寝ちゃったし、私がうちに泊めるって言ったのよ。」
何とか誤魔化そうと、幸子は必死に取り繕った。
絶対に、由英に気付かれてはいけない。
幸子の、揺るぎない覚悟が垣間見えた。
「そうだったのか。
色々、気を遣わせて悪かったな。
この埋め合わせは、今度するからさ。」
「本当?
じゃあ・・・・・新しいバッグでも買ってもらおうかしら。」
「おいおい、それはあんまりじゃないか。
なぁ、洋太もそう思うよな?」
2人の冗談を言い合う様子に、仲睦まじい関係性を再確認した。
由英と一緒なら、どんな苦痛にも耐えられる。
幸子が、毎日に及ぶ地獄の日々を凌いでこれたわけだ。
僕は、何だか安心して釣られる様に笑ってしまった。
しかし、この幸せな空間をいとも簡単に壊す者が近くに居る事を、僕と幸子は忘れていたのだ。
「ほぅ、楽しそうだねぇ。
私も、混ぜてくれないかな。」
幸子の表情が、一瞬で険しくなったのを見逃さなかった。
僕も、その声を聞いては後ろを振り返らずにはいられない。
そこに居たのは最もこの場に不相応な人物、野田だった。
「町長、おはようございます!
すいません、起こしちゃいましたか?」
「牧元君、ここで町長はよしてくれよ。
君と私の仲だ、野田でいいよ。
ねぇ、奥さん。」
野田の淫らな視線が、幸子へと向けられた。
幸子は、狼狽を隠せない様だ。
何も知らない由英は、未だに慕う野田に話し掛けた。
「そういえば、昨日はご迷惑をお掛けしました。
まさか、先に寝ちゃうとは。」
「いやいや、迷惑なんてとんでもない。
むしろ、君には感謝してるんだ。
君のおかげで、昨日はとても楽しませてもらったよ。
本当に、夢の様な時間だった。
ねぇ、奥さん。」
由英にしてみれば、皆目見当がつかないだろう。
尊敬する男が、愛する妻を犯していたとは・・・。
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