【19】
庭に幸子の車があるという事は、幸子が居るという証拠だ。
だが、晶も家に居る。
それは当然確認済みだったが、伊藤の表情はどんどん淫らなものに変わっていく。
待ちきれない様子の伊藤は、躊躇なく家の中へ入っていった。
僕が隠れているのは、家の周りにあるコンクリート塀の外で玄関が見える位置だ。
ここからなら、玄関の中まで確認出来そうだ。
「奥さーん、居ますかぁ?」
この伊藤の言葉で、幸子にとって地獄の時間が始まった。
「はーい・・・えっ!?」
まさかの人物の登場に、幸子が驚くのも当然だろう。
しかしそれよりも、現れた幸子の姿に僕は思わず見入ってしまった。
上半身は濃紺のスーツ、その中に白いYシャツ。
下半身はスーツと同色の濃紺のスカート、中にはベージュのストッキング。
スカートの丈は、膝が隠れる程度。
化粧は、普段よりも少し濃い目だろうか。
口紅も、普段より少し濃い目で外出用の身だしなみという事が窺える。
パートの面接とはいえ、しっかりと正装に着替える所はプライドが高い幸子ならではの装いだろう。
だが、僕にとってその姿は扇情的なものに見えて仕方なかった。
普段の主婦としての姿も、もちろん色気はある。
でも、今日の幸子は普段よりも興奮を掻き立てる様な出で立ち
だった。
まず、ストッキングを穿いているとはいえ、いつもは見れない生足。
ジーンズの上からでは確認出来ないふくらはぎの肉付きは、その上に続く太股の肉付きを容易に想像させてしまう。
更にいつもより濃い目の化粧は、大人の女の色気をより引き立たせていた。
また、何といってもスーツ姿という服装が僕にとってはたまらなかった。
普段は見れないというのもあるだろうが、幸子のスーツ姿は若い女には出せない熟れた女の色気を存分に醸し出していたのだ。
恐らく、今日が1番蠱惑的な女臭を醸し出しているかもしれない。
そして、もちろんそれは伊藤も感じている様だ。
幸子を視姦する目は、いつもより卑猥なものだった。
一方、幸子は突然の招かれざる客の登場に困惑している様子だ。
幸子にしてみれば1番嫌悪する男だけに、目の前に現れただけでも不快なのだろう。
それでいて服装は薄汚れたジャージで、そのみすぼらしい格好は不潔感で溢れている。
ましてや、もうじき面接があるのだ。
あまりの間の悪さに、苛立っている様に見えた。
伊藤も幸子の心情を察している様だが、全く悪びれていない。
「・・・何か?」
幸子は、苛立ちもあるが警戒もしている様だ。
やはり、伊藤と接する事はかなりの苦痛なのだろう。
それに、今日は近所にほとんど人が居ない事は幸子も知っているはず。
晶がまだ家に居るとはいえ、周りに誰も居ないのではないかという状況も幸子にとっては落ち着かないのかもしれない。
晶の姿は見えないので、恐らく部屋にいるのだろう。
伊藤は、まだ幸子に見惚れて眺めていた。
「・・・ちょっと!!」
幸子の声で、伊藤も我に返った様だ。
「あっ、いや~申し訳ない。
奥さんがあまりに美しかったもので。ゲヘヘッ。」
伊藤のその言葉に、幸子は更に嫌悪感を露にした。
「一体、何のご用なんですか!?」
「まぁ、そう冷たくせんでくださいよ。
せっかく奥さんにお届け物を持ってきたのに。」
「えっ?」
「いや、私が奥さんの物だと確信しているだけなんですがね。」
幸子は、不審者を見る様に警戒している。
いきなり伊藤に訳が分からない事を言われれば、当然だろう。
「これなんですが、実はさっきお宅の軒先で拾いましてね。
だから、奥さんの物じゃないかと思いまして。」
伊藤はそう言うと、手に持っていた白いビニール袋を幸子に差し出した。
「・・・これは?」
「いやぁ、私の口からは何とも・・・。
奥さんご本人に、確認していただきたいんですよ。」
幸子は、躊躇しながらも受け取った。
早くしないと面接の時間に間に合わなくなるという焦りもあるだろうが、何よりも伊藤と2人きりの空間は耐えられないほど憂鬱な為に、早く帰したいのだろう。
幸子は、確認しようと受け取った袋の中を見た。
「・・・えっ?・・・いやっ!!」
確認した瞬間、幸子は思わず悲鳴を上げると袋を落としてしまった。
そんな反応を起こすのも、仕方がない。
その袋の中身の正体は、僕が盗んだ幸子の下着だ。
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