【18】
僕は伊藤の許可もとらず、この場を去ろうとした。
だが、伊藤がそれを許すはずがなかった。
そして、僕の嫌な予感は的中するのだった。
「おい、誰が帰っていいと言った!
まだ話は終わってねぇぞ!」
伊藤の声色が変わり、僕は思わず足を止めた。
「わざわざお前の為にこんなのを見せるわけねぇだろ!」
伊藤の暴虐性に、僕は怯えずにはいられなかった。
「・・・言ったろ、俺達は同志だ。
お前だって、あの女の事を考えただけで興奮するだろ?」
「・・・僕は、お前みたいな事はしない。」
「下着を盗んでおいて、よくそんな事言えるな。」
その言葉に、僕は反論出来なかった。
「まぁ安心しろ、同志を売る様な真似はしない。
・・・但し、お前を同志と見込んで頼みがある。」
やはり、何かあるとは思っていた。
この話の流れからすると、恐らくまた幸子の下着を盗んでこいという類いだろう。
「また下着を盗めって?そんな事、何回もやってたらいずれバレるよ。
そうなったら僕もやばいけど、お前だって終わりだぞ。」
何とか、不利な状況を打開しなければと思った。
それに、もう幸子の下着を盗む気にもならなかった。
さっきは思わず勢いで盗んでしまったが、こんな状況になってはもう無理だ。
これ以上、伊藤が幸子の下着を好き放題弄ぶのは耐えられない。
妄想の中では幸子を犯す相手としては最適な人物だが、やはり現実となると話が違うという事だ。
しかし、この男の幸子に対する淫欲は僕の予想をはるかに上回っていたのだった。
「ふんっ、何を勘違いしている。もう下着はいい。
せっかく、お前の様な同志が出来たんだ。
・・・計画実行だ。」
伊藤は、より一層怪しい笑みを浮かべた。
僕は、それにただ従うしかなかった。
1週間が経った。
今日は日曜日、天候は雲1つない快晴だ。
ようやく9月も下旬になり、気温が落ち着きはじめたというのにこの日は真夏に逆戻りの様な暑さだ。
出来れば外出などせず、エアコンの効いた部屋に1日中閉じこもっていたいものだ。
だが、そんな日でも運動会は行われる。
僕の親も運動場へ向かい、家には僕しか居ない。
更に近隣住人達も参加しているので、辺りは静けさに包まれていた。
昼間だというのに、この人気の無さは不気味に感じてしまう。
とはいえ、運動場は僕の家から徒歩で十数分程なので、外に出れば微かな声援や開会式の花火などは聞こえていた。
それから、あっという間に時刻は12時半を回った。
僕は、重い足取りで家を出た。
深い溜め息を吐き、強い罪悪感に苦しみながら足を前に進める。
少し時間が掛かってしまった。
僕は、小走りで目的地へ向かった。
しかし、向かう方角は友人の○○の家では無い。
これ以上進みたくはないが、僕には他に選択肢がなかった。
運動場から聞こえる僅かな声援も、少し離れた様だ。
そして、目的地へ着いた。
僕は、その家の中へ入っていった。
「おせぇぞ!!いつまで待たせんだよ!!」
声を荒げたのはこの家の主、伊藤だ。
「てめぇ、自分の立場分かってんのか!?
計画が台無しになったらただじゃ済まねぇからな!!」
大分、苛立っている様だ。
いや、というよりも興奮状態を抑えきれずにいるという方が正しいのかもしれない。
時刻は12時45分、もう猶予は無い。
落ち着きがない伊藤は、僕にある物を手渡した。
「いいか、しくじるなよ!」
「・・・あっ、あの。やっぱり止めた方が・・・」
「あぁ!?今更何言ってんだ!
こっちはなぁ、さっきまで歩き回ってたんだぞ!
もう俺が限界なの分かってんだろ!?
・・・お前だっていいもん見れるんだ。
興奮して、気ぃ失うなよ。」
伊藤はそれ以上語らず、外へ出た。
もう、覚悟を決めるしかない。
僕は、それ以上考える事を止めた。
伊藤は、迷いなくスタスタと進んでいく。
僕は、伊藤の指示通り物陰に隠れた。
そして伊藤の向かった場所は、もちろん幸子の家だった。
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