【118】
杉浦が僕に送ってきたディスクの中の映像で、最も耳を疑う発言だ。
幸子を金儲けの道具として使う、何とも常軌を逸した内容だった。
つまり、杉浦は野田から金銭や地位を要求するつもりというわけだ。
恐らく、既に客間の何処かに証拠となる隠しカメラも設置しているに違いない。
その映像を脅迫材料にして何もかも手に入れる、鬼畜な杉浦の考えそうな事だ。
この狂気に満ちた計画を阻止出来る者がいるとすれば、それは僕以外あり得ないだろう。
由英は酔い潰れて起きる気配は無いし、僕がここで止めれば未然に防げるはずだ。
だが、やはり僕の体は動く事が出来なかった。
幸子に、全てを知られてしまうわけにはいかない。
この元凶を招いたのは、僕なのだから・・・。
他に防げる可能性があるとするなら、野田がこの誘惑を断ると選択する事だが、それは期待薄だろう。
幸子を弄べる現実は、男にとって快楽そのものなのだ。
ましてや以前から幸子に卑猥な欲望を抱いていた野田が、そんな誘惑を断るはずがない。
しかし、野田から帰ってきた言葉は意外なものだった。
「どっ、どうしてわざわざそんな事を!
君に、何の得があるというんだ!
それに、私はこんな事を頼んだ覚えは無いぞ!
何を勘違いしているのか知らないが、早く離すんだ!
奥さんを困らせるんじゃない!」
まさか、野田から拒むとは思いもしなかった。
これはあくまで僕の推測だが、野田は自身の地位が失われる事を危惧しているのではないだろうか。
幸子に向ける感情が、淫獣そのものなのは間違いない。
本当なら今すぐにでも襲い掛かりたいはずだが、理性を留めているのは町長というポストが野田にとって余程重要だからだろう。
これが公になれば、当然全てを失ってしまう。
でも野田がそう考える理由は、幸子が逆らえない立場にいる事を知らないからだ。
杉浦に性奴隷として扱われているとは、想像もしていないはずだ。
そして、そう推測したのはもちろん僕だけではなかった。
「・・・ひょっとして俺の事、急におかしな行動を起こしたイカれた奴だと思ってませんか?
それなら大丈夫、俺は至って正常です。
・・・・・やっぱり、教えなきゃ駄目だな。
町長・・・幸子はね、俺には逆らえないんですよ。」
「えっ・・・そっ、それはどういう意味なんだ!?」
野田は杉浦だけでなく、幸子にも目をやった。
だが、幸子は顔を逸らしたまま何も語ろうとはしなかった。
杉浦と伊藤以外の人物に関係性を知られてしまった事は、幸子にとってかなり恥辱的な心境に違いない。
「・・・その通りの言葉です。
だから、幸子が訴える事はありません。
今日の事は、誰も分からないんですよ。
さっきも言いましたけど、これは俺からの町長就任のお祝いです。
町の為に汗水垂らして働いているんだから、ちょっとくらい息抜きしてもバチは当たりませんよ。
何もかも忘れて、気の済むまで幸子を好きにしてください。」
杉浦の言葉で野田の心情が揺らいだのは、表情から読み取れた。
そう、今夜の事が外部に洩れさえしなければ野田には迷う必要など全く無いのだ。
幸子との情事を、長年望んでいた淫獣なのだから・・・。
しかし、幸子もこのまま黙って新たな淫獣の餌食になるわけにはいかなかった。
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