【112】
それから、30分程が経った。
周りの男達は、騒ぎ続けている。
特に、これといった変化も無い。
この中の誰も、異変を感じるものは居ないだろう。
だが、淫獣の計画は確実に進んでいた。
先程まで僕の向かいに座っていた杉浦の姿は無く、別の席へ移動している。
そこは、由英の隣だった。
どうやら、由英に酒を注いでいる様だ。
傍から見れば、部下が上司に酒を注ぐ行動はごく自然のものだろう・・・。
すると、ある人物が僕に近付くと声を掛けてきた。
「あら、いつの間に・・・。
洋太?・・・困ったわね。」
この空間に居る唯一の女、幸子だ。
更に、今度は別の人物が幸子に声を掛けた。
「あぁ、ごめんなさい。
俺が悪ふざけで洋太に酒を飲ませたから、寝ちゃったみたいですね。」
そう、僕は今、横たわって寝ていたのだ。
もちろん本当に寝ているわけではなく、薄く目を開けた状態で周りを確認していた。
何故なら、これが杉浦の指示だったからだ。
『酒に酔って寝たふりをしろ。』
それ以外は、何も言われていない。
しかし、大方の予想はつく。
恐らく、このままの状態で幸子が蹂躙される様子を眺めていろという事なのだろう。
確かに、これなら僕がこの場に居ても不自然ではない。
酔い潰れて爆睡しているなら、どうする事も出来ないはずだ。
とはいえ。この先から杉浦がどんな狙いを目論んでいるのかは分からない。
もう、流れに身を任せるしかないのだ・・・。
「全く、洋太もこの程度で寝ちゃうなんてなぁ。
こりゃあ、当分は起きないでしょうね。」
そう言いながら、杉浦は近付いてきた。
幸子が警戒を強めたのは、僕にも伝わった。
だが、幸子は憤りを隠せない様だ。
「洋太は、まだ未成年よ!
どうしてお酒なんて飲ませたの!?」
普段の、溜まりに溜まった苛立ちもあるだろう。
周りを気にしてか声は最小限に抑えているが、憎悪の感情で溢れているのは確かだ。
幸子が怒りを露わにしたこの表情を僕が見るのは、伊藤に犯された時以来かもしれない。
あの時もこんな表情で気丈に対峙していたが、結局犯されてしまったのだ。
それに、杉浦が幸子のこの態度を許すはずがなかった。
「いやぁ、やっぱりおばさんは恐いなぁ。
俺と初めて会った時も、そんな顔で怒ってたっけ?」
杉浦が言っているのは、初めて牧元家に来た時に下着を嗅いでいる所を幸子に目撃され、追い出された事だろう。
幸子が、杉浦を嫌悪する対象と認めた瞬間だ。
「あれから、もう6年になるのかぁ。
まさか・・・こんな深い関係になれるなんて、今でも夢みたいだよ。」
邪淫な主従関係という現実を思い出させられ、怒りに満ちていた幸子の表情は一瞬で青ざめてしまった。
※元投稿はこちら >>