【108】
台所へ向かう幸子を眺め、杉浦は僕の向かいに座った。
「・・・・・。」
こうして杉浦と顔を合わせるのも、卒業式当日の夜以来だ。
幸子を何度も犯し続けた一部始終の映像が収められたディスクを、僕に手渡した。
それから、どれだけの醜悪な淫攻を行い続けていたのかは、先程の幸子の表情を見れば明らかだ。
「・・・・・。」
座っても、杉浦は僕に何も話し掛けてこない。
幸子を弄んでいると言う余裕からなのか、太々しい態度が垣間見える。
焦れたのは、僕の方だった。
「・・・何をする気?
僕を呼んだのは、違う理由だよね?」
そう、今夜僕が幸子の家を訪れたのは杉浦が仕組んだ事なのだ。
すると、周りの男達が拍手をし始めた。
「それでは、野田町長!
一言お願いします!」
それに乗せられ、立ち上がったのは野田要治だ。
「えぇ、まずは皆さん本日は私の為にわざわざお集まりいただき有難うございます。
社長を退いたのに、こうしてまた皆さんと酒を酌み交わせるなんて思いもしませんでした。
気持ちはまだまだ若いつもりなので、これからも精一杯頑張ります。
・・・それと、今夜は牧元君の奥様がご招待して下さったと聞きました。
こんなに美味しそうな料理までたくさん作っていただき、本当に有難うございます。」
丁度、台所から料理を持ってきた幸子は軽く会釈をした。
だが、作り笑顔なのは明白だ。
杉浦の存在が気掛かりで、不安を隠しきれないのだろう。
幸子は、すぐに台所へ戻っていった。
一方、客間は野田の挨拶が終わると乾杯の音頭と共に一層騒がしくなった。
きっと、近所にまで盛り上がる声が聞こえているに違いない。
しかし、今の僕にはこの騒音も耳に入らない程ある事に集中していた。
杉浦は一体何を企んでいるのか、だ。
もう一度、冷静に考えてみよう。
僕が今ここに居るのは、間違いなく杉浦によって仕組まれた事だ。
今日の午後、数時間前に杉浦からメールが届いた。
『今夜、野田要治の町長就任を祝って野田土木興業の社員達で宴会を開く事になった。
場所は牧元家、お前も7時までには来い。
話はつけてあるから、安心しろ。
おっさんばかりでつまらないから、俺がお前も呼んでほしいと頼んだって事にしてある。
いいか、絶対に来るんだぞ。』
半ば脅しの様なメールに、僕は従うしかなかった。
そして、やはりこの宴会は杉浦の計画によって開かれたものだ。
もちろん、幸子が招待したわけではない。
恐らく、杉浦に逆らえず指示されたのだろう。
それから、何より心配なのは僕が呼ばれたのを幸子が疑問に感じないかという事だ。
幸子と由英の口振りでは僕が来る事は知っていたし、メールの通り杉浦が話し相手として呼んだと思っているらしい。
それに由英と杉浦は同じ職場で、晶や僕が同級生であると知っているなら由英にも怪しまれないはずだ。
とりあえず、僕がここに居る事に対しての違和感は無いと考えていいだろう。
だが、杉浦がそんな理由だけで僕を牧元家に呼ぶなんて絶対にあり得ない。
幸子を弄ぶ淫醜行為を、画策しているに違いないのだ。
そんな僕の心配事など気にも留めず、杉浦は幸子が作った料理を下品に頬張っている。
僕は、再び杉浦に問いかけようとした。
すると、ようやく杉浦が口を開いた。
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