【107】
定年の65歳まで社長職を全うした野田は、後任に会社を託したらしい。
その後、今年の春から町長に就任したというわけだ。
見た目は、やや肥満体型で禿げかかった白髪の頭部が特徴的。
年相応で、還暦を過ぎ老年期を迎える男性といったところだ。
しかし、周囲の評判は決して悪くない。
一代で野田土木興業を築き、町内でも大きな企業に育て上げた。
前任の町長が頼りない事もあったが、その部分も評価されて当選したに違いない。
それと、既婚者で家庭持ちのはずだ。
恐らく、町民の多くは野田の印象を頼りがいのある有識者、そう答えるだろう・・・。
「あれ、今まで仕事してたんですか?」
1人の男が、野田に尋ねた。
確かに、僕も違和感があった。
何故なら、野田はスーツ姿だったからだ。
「んっ、あぁ。
今日は、出張に行っててね。
それで、さっき駅で拾ってもらったんだ。」
「いやぁ、町長になっても大変ですねぇ。
やっぱり、野田さんじゃないと務まらないよ。」
露骨に媚びへつらう男達。
その姿は、あまり見ていられるものではない。
すると、由英が口を開いた。
「じゃあ、今夜は酔い潰れるまで飲んでもらいましょう!
社長、こちらです。」
「牧元さん、もう社長じゃないですよ!
町長ですよ、町長!」
「あっ、すいません!
いつもの癖で、つい。」
室内は、笑いに包まれた。
結果的に、雰囲気は更に盛り上がった様だ。
幸子も、思わず由英に向けて笑みを浮かべている。
愛している者だけに見せる表情、僕にはそう感じた。
だが、野田が客間に入ってくると状況は一変するのだった。
野田の後ろに、もう1人の存在を確認したのだ。
その瞬間、幸子の表情が一気に険しくなったのを僕は見逃さなかった。
見慣れた顔で、もちろん僕も知っている。
卒業式の日までは恩人とすら思い信頼していたのに、現在では幸子に最も凌辱の限りを尽くす淫獣、杉浦だ。
久しぶりに見た杉浦の姿は、以前にも増して醜悪だった。
体型は相変わらず肥満体で、無精ひげが生えている様だ。
元から老熟した見た目だったが、今ではとても未成年の同い年とは思えない。
着ているジャージも汚く、益々伊藤に酷似している様だ。
こんな男に犯され続けている幸子の心情は、察するに余りある。
「おぉ杉浦君、洋太も来てるぞ。
向かいに座るといい。」
杉浦にそう話し掛けたのは、由英だった。
「ありがとうございます。」
こちらへ向かってくる杉浦。
僕の近くに居た幸子は、立ち上がると杉浦から逃げる様に台所へ行こうとした。
しかし、淫獣が黙っているはずがない。
「あっ、おばさん。
・・・今日も、お世話になります。」
「えっ、えぇ。」
その言葉にどんな意味が込められているのか、考えただけで恐ろしい。
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