【105】
男達の中には、見覚えのある顔も居る。
何故なら男達は皆、野田土木興業で働く作業員だったからだ。
これだけの人数がいれば、外にまで声が聞こえるのは当然だろう。
「洋太、最近見ない間にすっかり大人になったんじゃないか?」
「ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
「ハハッ・・・。」
由英も、僕が幼少期の時からお世話になっている人物だ。
だが、その妻である幸子に淫らな感情を抱いている事は知らない。
ましてや、現在も愛する妻が淫獣達に苦しめられている原因を作ったのは僕だ。
由英は何が起きているのかも知らず、気さくに話し掛けてくる。
本来、僕には由英にも会わせる顔など無い。
しかし、由英は再び話し掛けてきた。
「そういえば、晶と連絡はとってるのか?」
「あっ、そうそう。
晶から聞いたわよ。
最近は、連絡とれてないって。」
「えっ・・・あぁ、うん。
ちょっと、忙しくて。」
本当の理由など言えるわけもなく、思わず顔を背けてしまった。
すると、他の男達によって僕はこの耐え難い空気から解放されるのだった。
「奥さ~ん、こっちにビール持ってきてもらえるかなぁ!?」
「あら、おかしいわね。
さっき、持っていったはずなんだけど・・・。
は~い、今持っていきま~す!
とりあえず、洋太も座りなさい。
あなた、座る場所を用意してあげて。」
幸子は、そう言うと台所へ向かった。
「う~ん、何処がいいかなぁ。
あっ、1番奥がいいんじゃないか?
なぁ洋太、2人分空いてるから丁度いいだろ。」
僕は、由英の言う通り客間の端の席に座った。
テーブルにはビール等の酒類の他に、たくさんの料理が並んでいる。
その料理を見て、僕はすぐに分かった。
全て、幸子の手料理だ。
これだけの料理を作るのは、大変だったに違いない。
しかも、台所に居る幸子の様子ではまだ料理を作っている様だ。
だが、幸子はその前に頼まれたビールを持ってきた。
「すいません、お待たせしました。」
「おぉ、悪いね奥さん。
いやぁ、でも美味しそうな料理ばかりだなぁ。」
「全く、牧元さんが羨ましいよ。
こんなに料理が上手くて、綺麗な奥さんが居るんだからなぁ。
うちの母ちゃんとは、エラい違いだ。」
「ハハハッ、そんな事言って大丈夫か?
バレたら大変だぞ。」
自分の妻を褒められて、由英はまんざらでもない様だ。
同僚との何気ない会話、そう思っているのかもしれない。
幸子も、夫が同僚と良好な関係を築いている証拠だという位にしか感じていない様だった。
妻としては、安心する光景に見えただろう。
しかし、僕にはそんな和やかな様子に映ってはいなかった。
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