【14】
「えっ!?」
何故この男がここにいるのか、僕は困惑した。
しかし、すぐに理解した。
この男の以前からの不審な行動、つまり幸子に良からぬ感情を抱いている事を知っていた僕には、この男がここにいる理由がはっきりと分かったのだ。
幸子目当てで、幸子の家を覗き見していたに違いない。
それも1度や2度では無く、頻繁に行っているはず。
妄想で伊藤が幸子を覗き見した後、犯すという設定で何度も扱いたが、まさか本当に覗き見していたとは。
そして、恐らく・・・。
僕が黙っていると、伊藤が口を開いた。
「・・・もしかして、探し物はこれか?」
そう言った伊藤の手に持っていたのは、白いビニール袋だった。
やはり、僕の嫌な予感は的中してしまった。
多分、僕が窓からビニール袋を落としたのを見ていて、不審に思い中身も確認したに違いない。
よりによって、この男に気付かれるとは・・・。
今更だが、僕はとんでもない過ちを犯した事を後悔した。
伊藤は不気味な笑みを浮かべ、僕に近付こうとした。
すると、洗面所に明かりが点いた。
洗面所の窓下にいる僕は、動揺した。
こんな所を見られでもしたら、何もかもおしまいだ。
僕は、気配を消した。
伊藤も気付かれたくないのは同じで、警戒している様だ。
もしも幸子だったら、気付かれたらどうしよう。
僕は、汗が止まらなかった。
だが、どうやら幸子ではなく晶の様だった。
風呂に入りに来たのだろう。
更にもうしばらくして、シャワーの音が聞こえ始めた。
ようやく身動きがとれ、僕は溜め息を吐いた。
しかし安心したのも束の間、伊藤が動き出した。
「こんな所で立ち話も何だ。
・・・ついてこい。」
僕にそう言うと、伊藤は背中を向けて歩き出した。
断れるものなら、断りたかった。
だが幸子の下着を盗んだ事が知られた以上、この男には逆らえない。
どうする事も出来ず、僕は伊藤の後ろを付いていくしかなかった。
一体、僕をどうするつもりなのだろう。
脅したところで、学生の僕が持っている金額なんてたかが知れてる。
僕は、何か危険な事に巻き込まれそうな予感がしてならなかった。
伊藤の後を付いていき、連れてこられたのは斜め向かいにある建物、伊藤の家だった。
「・・・入れ。」
伊藤は、玄関を開けて入っていった。
改めて見ると、不気味な雰囲気が漂う家だ。
伊藤が住んでいるというだけで、そんな気がしてしまう。
もちろん、この家に入るのは初めてだ。
むしろ、この家に来る者など近所には誰もいないだろう。
古いボロ家とは思っていたが、内見はもっと酷かった。
というよりも、この男が管理を怠っているといった方が正しかった。
玄関には、粗大ゴミの袋が山積みになっている。
掃除もあまりやらないのか、埃があちこちにある様だ。
それに、何といっても臭いが酷すぎる。
ゴミによる悪臭が、家中に漂っているではないか。
そして、それ以上の悪臭があった。
恐らく、その原因が精液によるものだという事も分かった。
全てが、恐怖に包まれている。
こんな所、早く逃げ出したい。
でも、それは許されない。
僕は、覚悟を決めて家の中へ入った。
伊藤の後を付いていくと、そこは居間だった。
中心にちゃぶ台があり、伊藤は奥に座った。
「座れよ。」
伊藤の指示で、僕は手前に座った。
緊張する僕に、伊藤は休む間も与えず本題に入った。
「さぁて、何から話そうか?」
気味の悪い笑みを浮かべ、伊藤は僕に問いただした。
「まずは、この袋を窓から落としたのはお前だな?
誤魔化しても無駄だぞ。俺は見てたんだからな。」
伊藤は、僕に有無を言わせず続けた。
「問題は、この中身だ。」
伊藤は、袋の中を覗き込んでいる。
「・・・これは女の下着、だな。
誰の下着かな?ゲヘヘッ。」
伊藤は、更に不気味に笑った。
「お前がいたのは、牧元家だ。
となると、当然これは牧元家の住人の下着で間違いない。
そして、牧元家の女は1人だけ。
つまり、この下着は・・・。」
既に幸子の下着だと気付いているにも関わらず、この男はわざと尋問の様に僕を追い詰めた。
「・・・まずいよなぁ。友達の母親の下着を盗むなんて。
犯罪だぞ?友達も失うし、外も出歩けない。
こんな事が知れたら、お前の人生終わりだな。」
伊藤は、僕が何も言えないのをいいことに責め立てた。
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