【97】
まず小さな箱の中を占領しているのが、白いビニール袋だ。
白いビニール袋の中には何か入っているが、開けてみないと確認出来そうにない。
そして、そのビニール袋の上に絶対に無視できない物が置いてあったのだ。
1枚のディスクケース、もちろんディスクも入っていた。
これを見て、何も思わないわけがない。
僕は、急いで自分の部屋へ向かった。
不安と興奮が入り交じった感情は、何故か久しぶりにも感じる。
慌てる様にディスクをセッティングし、僕はテレビ画面に釘付けになった。
いつもは深夜でイヤホンをしながら観ているが、今は家族も不在だから問題無い。
ゴクッと唾を飲んで緊張感がピークに達した時、映像が映し出された。
「・・・よしっ、撮れてるな。」
開口一番、聞き覚えのある声が流れた。
間違いなく、杉浦の声だ。
更に、撮影場所もすぐに判明した。
何度も見たこの景色を、忘れるはずがない。
最近は訪れていなかったが、食器棚や冷蔵庫の配置場所は以前のままだ。
僕にとって楽しかった場所でもあれば、後悔に苛まれた場所でもある。
どうしても台所の景色を見ると、幸子の手料理を食べていた無邪気だった子供の頃と伊藤に犯された幸子を思い浮かべてしまう。
そう、ここは幸子の家の台所だ。
とはいえ、この映像が果たして何時のものなのかは不明だ。
もちろん杉浦の声がしていたし、幸子の家を出禁になっている杉浦が居るという事は最近の映像には違いないだろうが・・・。
すると、外から何か話し声の様なものが聴こえてきた。
それは、徐々に近付いてくる。
間近まで来ると、その正体が分かった。
「・・・野田要治(のだようじ)、野田要治でございます。
皆様の清き1票を、よろしくお願い致します。」
先日行われた、町長選挙の選挙カーだ。
今回の選挙は、現職町長と今通りかかった候補者との一騎打ちだった。
しかし、この選挙は最初から結果が見えていた。
現職の町長は頼り無く、以前から新しい人材が求められていたのだ。
その為、候補者が圧勝すると言われていた。
実際、結果は言うまでもなく候補者が新町長となっている。
それと、その新町長というのが由英の勤める土木会社の社長だったのには驚いた。
当然、町長になれる自信があったから社長を退いたのだろうが、今回の新町長は期待出来ると前評判は上々だった。
だが、今はそんな町の事情はどうでもいい。
つまり、この映像はつい最近のもので間違いないというわけだ。
・・・幸子は、何処にいるのだろう。
杉浦の撮影する映像に、幸子の姿はまだ無い。
近くで、物音がしている様だが・・・。
ところが、杉浦はその物音とは別の方向へ進んだ。
杉浦が向かった先、それは冷蔵庫の前だった。
そして、勝手に扉を開けて冷蔵庫の中を物色し始めたのだ。
「・・・おっ、これでいいか。」
そう言って杉浦が取り出したのは、缶ジュースだった。
他人の家の冷蔵庫から無遠慮に缶ジュースを取り出すなんて、杉浦らしい不行儀な行為だ。
そのまま椅子に座り、缶ジュースを開けようとする杉浦。
撮影しているビデオカメラで片手が塞がっている杉浦は、もう一方の手で器用にタブを開けた。
ゴクッゴクッと喉が鳴り、一気に飲み干そうとしているのが分かる。
もしや、喉が渇く様な激しい行為をしたという事なのだろうか。
そんな事を考えていると、どうやら杉浦はジュースを溢した様だ。
「うわっ、やべぇ!」
ビデオカメラは、下を映した。
「・・・・・あっ!!」
驚かずには、いられない。
何故なら、杉浦は下半身を晒していたからだ。
恐らく、全裸になっているのだろう。
しかも、相変わらず醜悪な剛棒は健在だった。
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