【95】
「たっ、単なる思い過ごしなんじゃない?
・・・だっ、だって去年もあれから元気になったんでしょ?」
「あぁ、1ヶ月位は辛そうだったけどいつの間にかピンピンしてたな。」
「じゃ、じゃあ今回もそうかもしれないよ。
・・・・・あっ、分かった!
ちょうど季節の変わり目だから、風邪引いちゃったとか?
去年も、秋ぐらいだったよね。」
何があったのか悟られない様に、僕も必死だ。
「・・・確かに、そうか。
実際、一昨日まですげぇ元気だったしな。
今朝も具合は悪そうだったけど、朝食は作ってたから余計な心配かなと思ってたんだ。
俺の考えすぎか。」
とりあえず、安心してホッと胸を撫で下ろした。
それに、幸子の現在の状態も聞けた。
もう立ち直れないのではと思っていたが、やはり幸子の気丈さは流石としか言いようがない。
2度も地獄に堕とされたら、普通は悲観して投げ遣りになってもおかしくはないはずだ。
しかし、幸子は屈したくないのだろう。
卑劣な淫獣によって、何もかも壊される事が許せないのだ。
一人息子の晶が居なくなる寂しさはあるだろうが、気を取り直して由英にも知られない様に日常生活を送れるに違いない。
僕は、少しでも罪悪感を無くそうと自分に言い聞かせた・・・。
その後、数時間が経った。
「・・・・・あっ、ごめん忘れてた。
この後、出掛ける用事があったんだ。」
僕に出来る援護、それはなるべく幸子を1人にしない事だ。
恐らく、杉浦も晶が引っ越すまでは家に押し入るなどの強引な行動はしないだろう。
とはいえ、淫獣は何処で見ているか分からない。
隙あらば、幸子に襲い掛かるはずだ。
晶には悪いが、嘘をついて早めに家に帰した方がいいだろう。
そして、僕は矛盾を承知で晶が帰った直後、幸子が杉浦に犯された映像を再び見た。
自分の中の淫欲を抑える事が出来ず、肉棒を激しく扱いた・・・。
それからあっという間に1週間、僕は誰とも会っていない。
晶は、荷造りや引越しの手続き等で会えないのは知っていた。
当然、幸子にも会っていない。
だが、意外だったのは杉浦だった。
卒業式の夜、あの映像が収められたディスクを持ってきて以来1度も姿を現していないのだ。
杉浦なら、幸子の身体を味わった快感を必ず自慢しに来るだろうと思っていたのに・・・。
もちろん、会わないに越したことはない。
僕からすれば、大きな裏切りをした鬼畜の様な人間なのだ。
本当なら、ぶん殴ってやりたいところだ。
でも、僕にそんな資格は無い。
何もかも原因は僕にあり、正論をぶつけてもおちょくられるのがオチだろう。
今はとにかく晶が居るうちは幸子を苦しめないでほしい、そう願うだけで精一杯だった。
しかし、そんな願いもどうやら今日までの様だ。
陽も暮れた頃、晶が訪ねてきた。
引っ越し前夜という事で、最後の挨拶に来たのだ。
とうとう、親友と離れ離れになる。
僕らは懐かしげに昔話に花を咲かせたり、激励の言葉を掛け合った。
次に会うのは、盆休みに帰省する時になるはずだ。
新たな船出の成功を祈り、晶は去っていった。
僕も、そろそろ社会人として動き出さなきゃいけない。
晶に負けない様な、胸を張れる人生を送ろう。
その為には、何とか幸子を救い出さなければいけない。
僕は、強い決意を抱いた。
だが現実は非情なもので、自分の犯した過ちは既に修復不可能な段階まで来てしまった事を思い知らされるのだった・・・。
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