監督さんの家の前に立ちました。結局、何も考えが浮かばずに、ここまで来てしまったのです。後ろで彼女が見てるなか、僕はチャイムを押します。
『出て来ないでくれ。』とさえ思います。しかし、なにも知らない彼女は玄関の扉を開いてしまうのです。『あっ!どうしたん?』といつもの彼女でした。
すぐに、『お前、びしょびしょやないかぁ~!なにしてんのやぁ~!』と言って、傘もささずに来てしまった僕を心配してくれます。
そして、急いでバスタオルを取りに行ってくれる監督さん。この前にも同じ光景がありました。僕はまた、同じ過ちを犯してしまったのです。
バスタオルを持って来てくれた彼女。『ほらほらぁ~!』と頭に被せてくれて、僕の頭を拭いてくれます。『アホなのぉ~。』と言って、叱ってくれます。
拭き終わると、『寒いやろ?入りぃ~。』と優しく言ってくれました。おろかな女です。この後、別れ話を持ち掛けられることを知らないのですから。
そして、『かすみさん~?』と言って、その時が来てしまうのです。
『かすみさん~?好きです…。ずっと、あなたが好きです。大好きです…。一緒にいたいです…。』
言った自分に涙が出ていました。吉岡さんを失う悲しさなのか、かすみさんと別れたくない気持ちなのか、それは僕にもよく分かりません。
ただ、涙が溢れてしまうのです。『どしたんや、お前ぇ~?』と、突然泣き出した僕を心配そうに見てくれています。
彼女はいつもそうなのです。口の悪い言い方でも、ちょっと僕のことを見てくれているのです。
『中、入ってもいい?』と聞くと、『おお、
入り入り。』と言って迎えてくれました。僕は後ろを振り返り、吉岡さんを見ます。
そして、彼女に一礼をして、別れを告げたのです。扉を締めると、彼女の車は走り去りました。あんな可愛い女を振ってしまったことへの、後悔もします。
ただ、もう後戻りは出来ないのです。
居間に行くと、濡れたジャージを見た彼女は、『びしょびしょやないかぁ~。』とジッパーを降ろし、脱がせようとしてくれます。
そんな彼女を僕は抱き締めました。『お前、私が濡れるやろ~!』と怒られますが、気にしません。
『お前、なんかあったんかぁ~?』とやはり聞いて来ます。僕は言いました。
『かすみとセックスしたいのぉ~!!溜まってるのぉ~!』
立ち去った吉岡さんですが、やはりこのままで引き下がるような人ではありません。彼女自身、過去に振られた経験は一度しかありません。それも女性にです。
『男が自分から去る。』、初めての経験に彼女の怒りは燃え上がります。
そして、物語は泥沼の展開へとなっていくのです…。
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