『人生初の二股』。そう、僕はこの時本当にそう思っていました。監督さんと吉岡さん、うまくやりさえすれば、どちらとも関係を保っていける。
本気でそう思っていたのです。しかし、そんなに甘いものではないと思い知らされることになります。
そして、物語はクライマックスへと向かうのです…。(たぶん…。)
今週の練習日であった水曜日は、見事に大雨。とても練習など出来ません。とりあえず我が家へ子供達を預けに来た姉も、帰ることを決めます。
午後7時。僕は監督さんの家に向かうために、傘をさして家を出ます。そして、小学校のグランド近くまで歩き、彼女の家の方へ曲がりました。
しかし、そこにはウィンカーを出したままの車が停まっていて、例のトヨタの高級車だったため、『吉岡さんかぁ~?』と少し焦るのです。
運転席をチラッと覗くと、本当にそうだったようです。もう声を掛けないわけにもいかず、僕はその場で覗き込むのです。
『ウィ~ン。』と助手席の窓が開き、『どこ行ってるん?』と吉岡さんが聞いて来ます。『ああ、コンビニ。』と僕は嘘をつきます。
彼女に『ローソン?』と聞かれ、『はい。』と答えました。『なら、乗りぃ~。』と言われ、僕は助手席へと乗り込むのです。しかし、車は走らず、
『なにしに行くん?』
『マンガぁ~。』
『マンガかぁ~。』
『うん。今日は発売日。』
『でぇ~、あの女のとこ行くんやぁ~…。』
彼女の一言に、車内が凍りつきます。ここに車を停めていた時点で、全部バレているのです。
『女のとこ行くんやろ~?』
『いかんよぉ~。』
『ユウさぁ~?私、捨てる気なん、あんたぁ?』
『…。』
『犯り捨てするんやったら、言いなよぉ~?こっちも考えがあるから~。どうなん?』
『そんなことないよぉ~。』
『なにがそんなことないのぉ~?あんた、ずっとあの女のとこおるよねぇ~?あいつと犯りまくってるん?』
『…。』
『あんなおばさんと、セックスしまくってるんと違う?あいつ、そんなええの?』
『違うってぇ~。彩香さんの方がええってぇ~、』
『なら、行くなっ!二度と行くなっ!分かったかっ!』
初めて見た彼女の『鬼の表情』でした。普段の惚け気味の彼女しか知らないため、その変貌にはかなり驚きました。そして…、
『お前、今から行って来いっ!行って、別れて来いっ!』
『…。』
『私が好きなんやろぉ~?そう言ってたよねぇ~?なら、なんで行けんの~?あの女とまだ犯りたいんかぁ~?』
『違うってぇ~。行くわぁ。ちゃんと話して来るわぁ。』
『なら、そうしてよぉ~。私、ユウと別れたくないよぉ~!』
そう言った彼女はアクセルを踏み、直線200mを一気に駆けるのです。あっという間に、監督さんの家の前まで着いてしまい、考える間もくれません。
そして、『ちゃんと別れて来ぃ~。ちゃんと話し出来たら、ユウの身体は私がなんとかしてあげるから~。』と笑って言ってくれました。
僕は、車を降りました。彼女は最後に、『話がつかんかったら、私を呼びっ!』と言って送り出してくれるのです。
車から監督さんの玄関までが、やけに近く感じました。
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