僕は急いで着替え、グランドへと向かいます。練習前の挨拶で集まっているみなさんから、『来た~!』『来たわぁ~!』と声があがります。
みなさんに、『こんばんばぉ~。』と挨拶をすると、『恋の病か?』『彼女出来たやろ~?』とそんな言葉ばかりが掛けられます。やはり皆さん、女性です。
約10日ぶりの練習です。ひさしぶりのノックも、うまくフライが上がりません。キャッチャーの女性に、『下手になってる…。』とからかわれたりします。
そして、モグモグタイムになり輪が出来ます。そして、いつものように、皆さんこの時間を利用して、グランドの隅のトイレに向かうのです。
僕は姉とおしゃべりをしながら、自分のタイミングを待ちます。そして、偶然にも監督さんのタイミングとあってしまったのです。
彼女が先に行き、僕がその後を追う形でした。監督さんと少しだけでも話をしたい僕は、少し早足になり、トイレにつく頃には、ようやく追い付きました。
トイレに入ろうとする彼女に、『監督さん、裏口から出て来てくれませんか?ちょっとだけ、話させてください。』と言って、僕は男子トイレへと入るのです。
用を済ませ、仲間から見えない裏口で監督さんを待ちます。彼女がこっちの裏口から出てくる保証など何一つありせん。
女子トイレのブースが開き、水道で手が洗われます。そして、監督さんが向かったのは…、僕のいる裏口でした。すぐに、
『話し、なに?時間ないよ?』
『この前、ごめんなさい。』
『もうええわ。それだけか?』
『僕、それでもあなたが好きですっ!』
『そんなんええって!行くでぇ~!』
と、監督さんはみんなのところへと戻りました。僕は、疑われたらいけないと思い、一旦男子トイレに引っこみました。
しかし、そこに人の気配を感じるのです。『えっ?』と思いました。そこには、まだトイレを済ませていなかった吉岡さんが、僕を見ていたのです。
『いつからそこに?』『今の聞かれた?』『どこまで聞いた?』、僕の頭にいろんなものが駆け巡ります。
しかし、吉岡さんは『トイレすんだぁ~?』といつもの笑顔で僕に話し掛け、そのまま女子トイレへと消えたのでした。
少し安心しました。聞いてはいないようです。そう思い、僕はグランドへと戻ろうとすると、いきなり裏口から彼女が現れたのです。
もちろん、トイレになど入ってはいません。
吉岡彩香さん。アイドルのような可愛い笑顔の裏には、底知れない闇を持っている女性なのです。
この時、すでに僕の監督さんに対する異変を感じとっていました。トイレに向かった僕が、監督さんへ早足になったのを彼女は見逃さなかったのです。
『もう一回、トイレ~。』と言って、すぐに後を追って来ていたのです。更に彼女はしたたかでした。
『二人に何かあるとすれば、用を足したあと。それも、見えない裏口で。』、そこまで読んで、わざとタイミングを送らせてやって来たのです。
僕と監督さんが話をしていた時、彼女は見えない位置でスパイクの紐をそこで直していました。結局、全てを彼女は聞いていたのです。
吉岡さんは『ユウっ!』と言って、僕の頭に手を掛けました。そして、彼女の厚い唇が、僕の唇と重なるのです。
とても逃げる気になりませんでした。こんな可愛い女性に迫られれば、ほとんどの男はそうだと思います。僕もその仲間なのです。
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